第146話

俺はそんな白月を見て、ふとある考えが頭に浮かんだ。とりあえず、それを口に出してみる。



「だったら、葉原がクラスの手伝いを終えるまでの間、俺たちと一緒に文化祭周る……ってのはどうだ?」


それを聞いた白月は、あからさまに困惑の表情を浮かべて尋ねる。



「……それは、天童くんや霞ヶ原くんたちと一緒に、ということでいいのかしら?」


「あぁ。あいつらも喜ぶと思うぞ」


実際、俺が白月を連れてきたとなれば、2人は間違いなく大喜びすることだろう。何なら、好きなものを白月に奢ってやろうとするかもしれない。間違いなく、白月にとってのメリットは大きい。


そんなことを考えて白月からの返答を待っていると、白月は変わらず困惑の表情を浮かべたまま微笑した。



「……ありがたい提案ではあるけれど、遠慮しておくわ」


「そうか」


「皇くんも、私のことは気にせず楽しんでらっしゃい。……2人とも、気を遣わせてしまって、ごめんなさいね」


「別に、気なんて遣ってねぇよ」


まぁ、白月がそう答えるだろうことは予想していた。

それでも、何かを言っておかなければいけない気がして、俺はそんな滑稽な案を提示したのだ。決して、気を遣ったわけでも、哀れんだわけでもない。


ただ単純に、白月を1人にしておくことが怖かっただけなのだ。



そうして俺は徐ろにスマホを取り出し、ちょうど輝彦から送られてきたメッセージを確認すると、それに短く返事を返してから言った。



「じゃあ、俺、そろそろ行くわ。葉原もクラスの手伝い頑張れよ」


「うん」


すっかりいつもの明るい表情に戻った葉原が、元気よく返事を返す。

それから、目を白月の方に向けてもう一度口を開く。



「それと、白月」


「なに?」


「……何かあったら、必ず連絡しろよ」


「……えぇ。わかった」


俺は、白月のその言葉を信じることにして、そのまま教室を後にした。


***


そうして俺と葉原は、教室に白月を残し、それぞれの方向へと足を進めた。



葉原は、1-4教室に雪崩れ込んでくる客を1人1人丁寧に対応し、クラスに大きな貢献をもたらした。

対して俺は、2-2教室前で待っていた輝彦、誠と共に校内を歩いて周り、それなりに文化祭を満喫していた。



そんな中、俺は廊下の窓からアプローチを歩く人々の黒い影をジッと見つめ、白月のことを考える。



……本当に、1人にして良かったのだろうか。


また、昨日のように柏城が白月に接触してきたらどうする。

今からでも、あの教室に戻った方がいいんじゃないか。


消え失せたはずの不安が、再び泡のように水面に浮かんでくる。



……けれど、俺が白月の元に戻るということは、あいつを信用していないということになる。


自分のことは信じてもらいたいくせに、相手を信じようとしないのは、強欲だろう。


……俺は一体、どうするべきなのだろう。

どうするのが、一番正しいのだろうか……。



「おーい、晴人。次、お化け屋敷行こうぜ」


そんな思考の渦に呑まれそうになっていたところを、輝彦の声で引き戻された。

俺はそんな輝彦に小さく「わかった」と告げると、再び喧騒が広がる廊下をゆっくりと歩き出した。

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