第140話
「はい。ありがとうございましたー」
その言葉の意味を尋ねる前に注文したかき氷は出来上がり、俺はそれを受け取ると、そこまで出かかった言葉を呑み込んで速やかにその場を離れた。
右手に持ったカップからは、しっかりと氷の冷たさを感じることができ、だんだんと指先の感覚が鈍っていくのが分かる。
そうして、削られた氷が持つ温度を肌で感じながら、俺は柏城が発した言葉の意味を考える。
…… “決断” ? 決断って何だ?
一体、白月が何を決断するっていうんだ。
わからない。
白月はやはり、俺にまだ何か隠しているのか? それとも、ただの柏城のハッタリか?
わからない。
ふと後ろを振り返ると、柏城は何事もなかったような顔をして淡々と誠の接客をこなしている。俺はそんなあいつの姿を見て、自分に嫌気が差した。
俺の心は、驚くほどに脆い。
あいつの、意味があるかどうかもわからないたった一言で、俺の心はこんなにもぐらついてしまっている。
引いた波が一気に押し寄せてくるかのように、不安が俺の心を満たしていく。
一体どうすれば、この不安の波から逃れられるのだろう……。
そんなことを考えていると、舌を真っ青に染めた輝彦が腕を俺の首に回してきた。
「どうした晴人、そんな暗い顔して。せっかくの文化祭なんだから、もっと楽しもうぜ。な!」
そう言って輝彦は、眩しいほどの笑みを浮かべて豪快な笑い声をあげる。
それを後ろで聞いていた誠も、同じように笑みを浮かべる。
「まぁ、とりあえず、どんどん周っていこうよ。そのうち、気分も晴れるって」
「……そうだな」
事情をよく知らない2人にそう励まされたことで、俺はほんの少しだけ気が楽になったように感じた。
こういう時『1人じゃない』というのは、かなり救いになる。2人がいてくれて、本当に良かった。
そんなことを考える中で、ふと教室にかけられているアナログ時計に目をやると、時刻は10時半を過ぎたところだった。
本日初回のプラネタリウム上映まで、残り30分を切っていた。
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