第129話
ようやく腰を落ち着けられたところで、俺は教室内にいる10名程度の一般参加者を眺めながら、隣りに座る白月に声をかける。
「白月のシフト、確か15時からだったよな? あの様子だと、1時間もしないうちに売り切れになるかもな」
今日、文化祭初日の活動時間は、一応16時までということになっている。
一般参加者については、その30分前には校内から出ておかないといけないため、実質あと1時間半でほとんどの団体が店の片付けを始めることになる。
そこから考えると、最後のシフトに入っている者は、仕事が片付けだけになる可能性も高い。
正直、あんなに自分のクラスが繁盛するとは思ってもいなかったため、今になってシフトを最後の方に入れておけば良かったと少し後悔している。
白月から言葉が返ってくるのを待ちながら、そんなことを考えていたのだが、いくら待っても白月は口を開こうとしない。
それが少し気になって、隣りに座る白月に目を向ける。
すると、白月は死人にでもなってしまったかのように顔の色を真っ青に変え、ただ静かに机の一点をジッと見つめていた。
その様子は明らかに普通ではなかった。
まるで、悪魔か何かに体を乗っ取られているようにも見えた。
俺は恐る恐る声をかける。
「……おい、どうした」
そう声をかけてからしばらくして、白月は意識が戻ったように顔を上げた。
「いえ、……何でもないわ」
「何でもないってことはねぇだろ。死人みたいだったぞ。……どっか、具合悪いのか?」
ひょっとすると、俺が勝手に善意だと思い込んで、あちこち連れ回してしまったのが悪かったのかもしれない。
そうだとしたら、俺の責任だ。
一気に罪悪感が押し寄せてくる。
「……本当に、大丈夫だから。心配ないわ。それよりプラネタリウムの方、そろそろ次のお客さんと交代だから案内しないといけないわね」
白月はそう言って体を支えるように机に手をついて立ち上がると、ドームの中にいる客に声をかけて、次の客に案内を始めた。
***
今思えば、この時に俺は気がつくべきだったんだ。
俺と別れた後、彼女に何があったのか。彼女が何に追い込まれているのか。
白月蒼子が一体どういう人物なのか、俺が一番よく知っていたはずなのに。
あいつが、人に弱みを見せようとしないやつだってことを、俺は誰よりもよく理解していたはずだったのに——。
***
こうして、拭いきれない疑念を抱きながら、文化祭1日目は順調に終わりへ向かって進んでいった。
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