第124話
葉原たち1年4組生徒によるメイド喫茶で軽い昼食を摂った後、俺は白月と適当に校内をぶらついた。
行く先々、どこもかしこも人だらけでゆっくり見て周ることは出来なかったが、少なくても文化祭の雰囲気だけはしっかりと味わうことが出来た。
俺も、白月も、ちゃんと高校生らしくこの文化祭を楽しめている。
ただそれだけのことで、胸の重りが外れたように安堵することができた。
途中、輝彦と誠に遭遇し、白月と一緒にいることについて詳しく言及されたが、白月の上手い切り返しでなんとか荒事にならずに済んだ。
そして、時刻はあっという間に13時に差し掛かり、俺はシフト交代のために白月と別れて2年2組教室へと移動することにした。
「それじゃあ、俺、そろそろシフトの時間だから行くわ」
「えぇ。……一緒に周ってくれてありがとう」
俺の目を真っ直ぐに見つめてはにかみ、しっかり礼を言ってくる白月。
周りが沢山の人で溢れていて、喧騒に埋め尽くされているにも拘らず、彼女の存在は何よりも強く、大きく感じることができた。
俺はそんな白月に向かって尋ねる。
「……白月はこれからどうするんだ?」
「そうね……。だいぶ文化祭の雰囲気にも慣れてきたことだし、もう少し1人で周って見てみようかしら」
「そうか。分かった。変な奴に絡まれないように気をつけろよ」
「はいはい。……皇くんって、たまにお母さんみたいなこと言うわよね。そういうところ、嫌いじゃないわよ」
白月はそう言って、ニマニマと揶揄うような笑みを浮かべる。
白月はただその場に佇んでいるだけで、人の目を集めてしまう。それは容姿が淡麗だからというのもあるが、常に彼女から放たれている『凡人』とは異なる雰囲気によるものの方が大きい。
今日だって、何度こいつが周りの人々からコソコソと品定めをされ、注目を集めていたか、もはや数えるのも面倒なくらいだ。
そんな奴が1人で校内を歩き回れば、きっと疚しい感情を抱いた参加者に声をかけられるようなこともあるだろう。
そんなことを考える中で、俺はゴールデンウィークに白月と出掛けた時のことを思い出していた。
今思い返して見ても、あれは嫌な思い出だ。
まぁ、これだけ人がいる校内で大胆にちょっかいを掛けてくるような輩はいないとは思うが、それでも一抹の不安は残る。
もし、白月に何かあれば、それを知った葉原は間違いなく悲しむだろう。そして、それは白月を1人にさせてしまった俺の監督不足ということになる。
だから、俺は念を押すように白月に告げる。
「うるせぇよ。何かトラブルが起これば、文化祭どころじゃなくなる。……だから、あんまり人のいないところはうろちょろするな」
すると俺の真剣さが届いたのか、それまで揶揄うような笑みを浮かべていた白月は、俺の言葉を優しく抱き抱えるようにコクリと頷いた。
「あなたたちに迷惑をかけるようなことはしないと誓うわ」
「ならいい。……それと『迷惑』じゃなくて『心配』だからな」
白月の言葉をそう強調して訂正すると、白月はクスクスと小さな笑いを溢した。
「……えぇ、わかったわ。皇くんも、クラスの手伝い頑張ってちょうだい。……それじゃあ、またあとで」
「あぁ」
そうして、俺は白月の後ろ姿が人混みに溶けていくのを見てから、2年2組教室へ向かって足を動かした。
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