第120話

凪ノ宮祭の開始が宣言されるなり、校内のいたるところで激しい客寄せが始まった。


文化祭実行委員を称するためのTシャツを着た生徒たちが、続々とやってくる参加者に上手く対応していることで、お祭り騒ぎとなっている校内でもなんとか混乱を避けることが出来ている。


俺たちはそんな実行委員の有能ぶりを尻目に校舎を出ると、校内同様激しい客寄せが行われているアプローチを通って正門へとやってきた。理由はもちろん、プラネタリウムの宣伝を兼ねたビラ配りをするためだ。


しかし、どうやら同じことを考えている団体が多いようで、正門前では他の団体に負けじと声を張って宣伝を行っている生徒が多く見受けられた。



「いらっしゃいませー! 1-5でたこ焼き売ってまーす!」


「2-4、チョコバナナ1本200円でーす!」


「11時からグラウンドにて、カラオケ大会行いまーす。参加は無料でーす!」



注目を集めるために派手なコスプレ衣装を着る生徒や、大きなプラカードを掲げて宣伝する生徒のお陰で俺たちの存在はそれはそれは薄いものになってしまっている。


そんな他のクラスや部活動にアドバンテージを取られてしまっている現状に、多少の不安を覚えながら俺は白月に尋ねる。



「俺たちも何かの仮装してくればよかったか?」


「皇くんはそのままでも十分ウケを狙えるから大丈夫よ」


「あんまり褒められてる気がしねぇな」


周りの連中はさも当たり前のようにこなしているが、見ず知らずの人に声をかけるという行為はそれなりに難易度が高い。

俺も人のことは言えないが、恐らくこの宣伝を兼ねたビラ配りは『天才 白月蒼子』が唯一苦手とするものなんじゃないだろうか。


普段の学校生活でも人と故意に関わろうとしない白月にとって、正真正銘赤の他人に何度も声をかけるという行為は未知の体験だろう。俺たちの手にはまだまだビラが残されており、少なくてもあと半分は配らなければ宣伝効果も期待できない。


しかしそんな中でも、1人だけ他の団体にとって喰われぬよう、小柄ながら精一杯声張ってビラを配っている者がいた。



「天文部でーす!! 11時から3-3にて、プラネタリウム行いまーす!! ぜひ来てくださぁーい!!」


彼女——、葉原夕は周りの喧騒に掻き消されぬよう自ら来場者の方へと歩み寄り、1人1人に対し笑みを浮かべて着々とビラを配っている。


葉原のその健気な姿は、俺たちを奮起させるのには十分なものだった。



「これは、俺らも負けてられねぇな」


「……えぇ、そうね」



そうして、苦手意識よりも “俺たち” の文化祭成功への想いが上回ったことで、なんとか目標としていた枚数は配り終えることができた。

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