レッスル・パペット・カーニバル!
ながやん
第1話「輝ける馬鹿」
それは、勝利を確信した
だが、お行儀のいい謙虚さは
放課後の校舎、廊下の女子達は輝と擦れ違っては振り返る。
その濡れた視線も無視して、彼は生徒会室のドアをバン! と開け放った。
「
宿敵にして
目の上のたんこぶというには、あまりにも可憐な少女が顔を上げた。
生徒会長、有栖星音は執務室に座ったまま、
長く伸ばした髪は、外国人の祖父譲りの銀髪である。
「あ、あの、会長……すみません、また輝の馬鹿が」
その少女、
だが、星音はそっと片手で史香を制する。
「構わないぞ、史香。なに、いつものことだ」
「いつものことだからですよ! もぉ……なんで輝ってば、スポーツと勉強しかできない馬鹿になっちゃったんだろ。昔は少し違ったのに」
「……昔からこうだがな、奴は」
三人は、幼稚園からの腐れ縁だ。
世間一般でいう、
そして、その関係性が始まってからずっと、輝は戦ってきた。あらゆる分野で、星音と
その星音がやれやれといった表情で立ち上がった。
氷河の如き
まるで男のようにぶっきらぼうに、学園最強の美少女は言の葉を
「で、今度はなんだ? どんな勝負でも受けるが、負けるつもりはないぞ」
「それはこっちも同じことっ! だが、我等は互いを知り過ぎた……お互い、手の内を全て把握している
「無論だ。お前のことはなんでもお見通しだからな」
「しかぁし! ついに俺様は貴様の秘密、弱点を知ったのだ!」
つまり、端的に言うとこうだ。
――星音の弱みを握ったので、ばらされたくなければ負けを認めろ。
おおよそ男らしくない、
敗北の歴史は少年を劣等感で
その星音だが、余裕に鼻を鳴らして動じない。
「ほう、私に弱点があったのか。言え、教えるがいい。公言して
「クククッ、吠え面かくなよ……星音っ! 完全無欠、誰もが憧れる最強ヒロイン、全女子の理想の彼氏系お姉さま! そんな貴様の秘密、それはぁ!」
あわわと史香が両者の間で慌てふためいている。
だが、輝は星音しか見えていなかった。
そして、星音に自分しか見せない。
息を大きく吸って、星音を指差し輝は叫んだ。
「有栖星音! 貴様は皆に隠れてコソコソと……こっそりと、フィギュレスを
その場の空気が凍った。
唯一変わらないのは、日頃から常に絶対零度の
目を点にした史香は、何度も
「フィギュ、レス? フィギュレスって、あの」
「そう! フィギュアート・レスリング! 通称フィギュレス! この女は、絶対無敵のお嬢さまを演じる影で……オタク丸出しの趣味を隠していたのだ!」
勝った。
完全勝利、第一部・完!
そう、今までの輝の人生、苦難と苦闘の連戦連敗編が終わった。これからは第二部、あの星音を超えた男としての
「えっと、その、フィギュレス」
「そうだ、史香! フィギュレスだ! 人形遊びだ!」
「……そ、それは、意外、だけど」
フィギュレス、正式名称はフィギュアート・レスリング。
全高15cm前後の美少女フィギュアを用いて、AR空間で戦われる格闘ゲームである。ドールマスターと呼ばれる参加者は、自分の分身たるフィギュドールを
熱狂的なファンがいる一方で、まだまだ一般人には普通な娯楽とは思われていない。それでもプロリーグがあり、深夜のテレビ中継が放送されている。
そのフィギュレスを、あの星音がやっているのだ。
「どうだ、星音っ! 貴様、この真実を否定できぬだろう!」
「無論だ。否定する必要がない」
「そうだろ、そうだろうとも! アーッハッハッハ! ……あ、あれ? なあ、秘密の
「事実だ。そして……都合がいい」
意外な反応に輝は面食らった。
だが、それがどうしたと言わんばかりに、執務机を回り込んで星音が近付いてくる。
すらりと長身でスタイルもよく、間近に迫られれば胸の膨らみが触れてきそうだ。
澄み渡る
「輝、私に付き合え。丁度、相手を探していたんだ」
突然の、これは……告白?
だが、いつも通りの
「いちいち説明する手間が
「あ、ああ、うそ……うん、ハイ。そ、そうだったのか。だが、これで貴様の弱みを――」
「では、よろしく頼む。私はお前のしぶとさと打たれ強さ、図太さやえげつなさを評価している。
全く話が読めない。
だが、一つだけわかったことがある。
また、輝は負けたのだ。
詳しい話も聞かずに、彼は敗北を悟った。
それは、常にラジカルでパワフルな天才少女、星音の言いなりになることを意味していた。
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