12、部活に三つ入って三つ辞めた話(前編)

 家族のことという趣旨からは逸れるようですが、ここで私の部活歴の話をさせてください。


「お前は根性がないから運動部に入れ」「一度厳しい世界を経験した方がいい」

 父と母のそんな猛プッシュで、中学の時に初めて入った部活は、水泳部でした。

 私は運動が得意ではありませんでした。だからこそ、苦手意識を克服させたいというのが親心だったのかもしれません。ともかく運動部を強制された私は、球技も走るのも苦手だったので、消去法で水泳部に入りました。小学校高学年の時、市民プールに通って練習した甲斐があり、クロールでプールの端まで泳ぐことくらいはできました。泳ぐことに対する苦手意識も、他の運動に比べると少なかったと思います。

 しかしながら、水泳部に入って待っていたのは、自分がどれだけ「できない子」なのかを見せつけられることでした。私以外の部員は、同級生も先輩も、皆小さいときからスイミングに通っているような子たちばかりでした。泳げるのは当たり前、体力も技術もある程度あることを前提とした練習メニューに、私はついていけませんでした。必死に手を書いても追いつくことができず、いつも周回遅れを泳いでいました。

 うちの学校には室内プールがなかったので、冬になるとひたすらランニングと筋トレをしていました。走るのは苦手でしたから、ここでも私は周回遅れを走っては、惨めな気持ちに苛まれていました。

 次第に私は部活に行かなくなりましたが、退部届を出す度胸もなく、幽霊部員を貫いていました。

 中学生の同時期、私は放送同好会にも籍を置いていました。ラジオを録るという活動に興味があったからでしたが、実態はただ放送室でだらだらおしゃべりをするだけでした。

 中学二年生の秋、私は二つの部活を辞めました。どこか引け目を感じていたらしく、父は反対はしませんでした。


 それからしばらくは、晴れ晴れとした気持ちで過ごしていました。次第に小説を書くことに精力を出すようになり、文芸部で小説を書いているような子たちとも、少しずつ仲良くなりました。

 文芸部の部誌の外部投稿にデータを出し始めたのも、おそらくこの時でした。それから一年ほど、私は帰宅部生活を謳歌しながら、新しくできた創作仲間たちと楽しく過ごしていました。

 転機が訪れたのは中三の秋ごろだったでしょうか。文芸部顧問のT先生が、外部投稿に出していた私の小説に目を止めました。ある日の放課後、「〇〇という賞があるんだけど、よければ出してみない?」と、T先生から声をかけられました。

 そのタイミングで、T先生から勧誘を受けた私は、文芸部に入部することになりました。中途からの入部でしたが、すでに知っている面子が何人もいたので、あまり緊張はしませんでした。

 文芸部の中では、水泳部の時とは打って変わり、好成績を残すことができました。前述の懸賞で中学生の部で金賞を頂いてから、単なる自己満足なのではないかと思っていた自分の創作に、少しずつ自信が持てるようになりました。そして、少しずつ強気に出れるようになってくると同時に、私は目に見えて図に乗っていました。

 最初は友達の輪に加われたようで楽しかった文芸部ですが、あくまで小説を書いていたかった私にとって、それ以外の活動は重荷でした。文芸部はT先生の権限が強く、その下で短歌や俳句などの活動を割合多く行っていました。しかしながら、実態については放送同好会と似たようなもので、時間のほとんどが部室に集まってだらだらと喋るだけに溶けました。年に三回か四回出していた部誌も、部員たちの提出状況は、締め切りギリギリどころか大幅に過ぎることが当たり前といった様子で、質もはっきり良いとは言えませんでした。

 一度は友人と組んで改革を試みたこともありましたが、結果は私たちとT先生を含む保守派の溝が深まるに留まりました。

 次第に私は文芸部と折が合わなくなりました。小説を読んでくれる存在はありがたかったけれど、いずれはプロになりたいと思っている私と、あくまで部活動として楽しみたい部員との温度差は、日を追うごとに広がっていきました。

 部で一番仲が良かった子との仲違いをきっかけに、文芸部からは足が遠のいていきました。(父に相談を持ち掛け、後になって嘲られたのもこの時のことです)

 部に所属しなくたって小説は書ける、というのがその頃の口癖でした。

 T先生はそんな私を、あまり良く思っていないようでした。よく教室まで押しかけてきては、「みんなで協力しながら切磋琢磨することが大事なんだから」と私を説き伏せていました。「みんな仲良く」を呪文のように唱える先生のことは、「おめでたい人だ」としか思えませんでした。何事も斜に構える癖があった私にとっては、まるで水と油みたいに合わない人でした。

  

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