第55話 高橋幸宏 METAFIVE(メタファイブ)

 また耳を疑う訃報が届いた。


 昨年は坂本龍一さんが、がん治療で闘病のニュースがあった中、高橋幸宏さんも脳腫瘍で治療中というニュースまで届いていた。そして年末に多くの著名人の訃報が報じられることが目立った。

 このエッセイでも第5話で書きましたが、映画『犬、走る』を撮影した崔洋一監督や、子供の頃によく聴いたC-C-Bの笠浩二さん(今回、カクヨムコンにエントリーした「鎮めよ!」で出てくる寺の名前が「龍幸寺」となっていて、読みが笠さんと一緒なのはたまたまです)。年明けにはジェフベックと、自分の音楽や創作歴に何かしらの影響を与えてくれた人たちが亡くなるニュースが多かった。

 そんな中で、上記2人の闘病ニュースは、安易に「現代の医療なら治るだろう」とたかを括っていたのでした。

 特に高橋幸宏さんは、色々と紆余曲折ありましたが、METAFIVEも復活してラストアルバムを制作するなど、勝手に手術がうまいこといって完治したと思い込んでました。どちらかと言うと坂本龍一さんの方が痩せてしまっていて、心配してしまっていた。それに引き換え、YMOで1番歳上の細野晴臣さんは元気だな、と呑気なことを考えるのです。

 まあ、いちファンとしては心配するしかないのですが、素人というのは知人でもないし、そんな芸能人のニュースを勝手に騒ぎ立てるものです。家族や友人の病気なら、普通に生活しててもずっと気にしてしまうものですが、有名人のことは心配してても冷たいのかすぐに忘れてしまうものです。そして、突然訃報はやってくる。


 朝、スマホの目覚ましがうるさく、止めるついでにパッと目に入ったのが「高橋幸宏氏(70)、死去」。

 一瞬、意味がわかりません。まだ起きたばかりだから、頭が回らないのか、読み間違えたとしか思えない。


 じゃあどれだけ好きだったのか、と聞かれると高橋幸宏氏のソロアルバムは持ってない。YMOは集めたけど、割と坂本龍一派だったりする。でも、YMOで聴くのは高橋幸宏さん作曲のライディーンはもちろんだが、個人的にはボーカル曲が好きだ。

『ONGAKU』や『FOCUS』をよく聴いた。アルバム『浮気なぼくら (NAUGHTY BOYS)』では、代表曲の『君に、胸キュン』より、その2曲を繰り返し聴いた。

 YMOを聴くようになったきっかけは、高校生の当時パンクを聴き始めた頃。THE MAD CAPSULE MARKETSを聴いて、『SOLID STATE SURVIVOR』にハマり、この原曲を聴きたくてYMOを知った。『SOLID STATE SURVIVOR』も『ライディーン』も、高橋幸宏さんが作曲だった。後藤次利に憧れて、サディスティックミカバンドを聴くようになった。そこに高橋幸宏さんは、いた。俳優の竹中直人さんが好きで、竹中直人がアルバムを出す度に買った。そこにも、高橋幸宏さんは、いた。

 アパレル業界に入り、そこにいた先輩に「ファッションを勉強するなら、高橋幸宏を参考にしろ」と言われた。真似して、髭を生やしてハットを被った。ロン毛でビーチサンダルで現れた坂本龍一に「カッコいいのに、もったいない」とファッションを教えたのが高橋幸宏さんだという逸話が好きだ。

 なぜかわからないけど、どこかしらで必ず影響を受けてしまう人だった。


 そんな高橋幸宏さんが2014年に新ユニットとしてMETAFIVEを結成した。メンバーには、小山田圭吾、トウワテイ、砂原良徳、ゴンドウトモヒコ、LEO今井と豪華な顔ぶれ。買わないはずがない。

 僕ら世代では、フリッパーズギターはみんな聴いてると思う。必ず小山田派か、小沢派か分かれるのだが、僕は小山田派だった。東京オリンピックパラリンピック競技大会での一件では騒ぎになったし、イジメはいけないとも思う。加害者ではないにしても、それはイメージの問題だ。小山田氏がどうであれ、あれは選考した人の下調べの甘さだったのではないか。こう言うことを書いては不謹慎かと思われるが、音楽ファンとしては小山田圭吾が、どんな曲を作ったのか気になって仕方がない。

 それに砂原良徳。この人は、電気グルーヴ大好きな僕からしてみれば、1番聴いていた時期のメンバーだ。もう終了してしまいましたが、静岡のローカル番組で『ピエール瀧のしょんないTV』というのがありまして、毎週欠かさず見てました。それにピエール瀧繋がりでよく出演してた人です。なぜか僕にはミュージシャンというよりも、ローカルCM収集家のイメージの方が強い。その人がテクノの重鎮、高橋幸宏さんのユニットに名を連ねるとは大出世じゃないか!と知り合いでもないのに勝手に親近感が湧き喜んでしまうのです。

 このメンバーで、絶対にハズレるわけがない!


 それでMETAの1曲目、『Don't Move』にヤラれてしまうわけです。METAFIVEを聴くまでは、このLEO今井という人を知らなかったのですが、完全に好きになってしまいLEO今井のソロアルバムも漁る始末。

 それを束ねている人が、何を隠そう高橋幸宏さん。


 メインボーカルのLEO今井の声もいいのですが、やっぱり高橋幸宏さんの、言葉に表すのが難しいですが、単純な言葉を許してもらえるなら「カッコいい」んです。

 決して歌い上げるわけでもなく、音程やリズムが機械のように正確で無機質に感じるのだが、どこか優しい声が耳に心地がいいのです。んー、上手く表現できない。これじゃあ音楽評論家にはなれない。


 むかし、多分YMO再始動時のインタビュー、もしくは坂本龍一の「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」でのコメントか忘れたが、コンマのズレなく生演奏でコンピュータのリズムを再現するのがYMOの始まりだというようなことを言っていた記憶があるのだが、じゃあなんでコンピュータでできることを生演奏でするのだろうと疑問に思った。

 それは、その正確さ故の無機質な感覚から生演奏することで、無機質と有機質の融合というか、やはりそこで人間の手が加わることでコンピュータに勝とうとしているのではないかと素人ながら解釈したわけで。んー、やっぱり音楽評論家にはなれない。


 そのコンピュータに勝ててるところが、高橋幸宏氏の声なのではないかと自分なりの結論。

 昨今、ボカロというものが流行っているが、なぜか受け入れられない自分には、声というものに対して、ものすごく拘りがある。自分が音痴だからなのか、歌えることに憧れてしまう。そして無機質が故、高橋幸宏氏の書く曲は歌いやすい。でも、あの声は出せない。

 決して派手な存在ではないのに、どこか目を引いてしまう。口数が少ないのだが、一言一言が飄々としていて、ミュージシャンとしてではなく、存在として憧れてしまう。

 一言で言えば、あんなスマートな大人になりたい。そう思わせてくれる存在であった。


 偉大なアーティストが、どんどんいなくなってしまう。でも、音楽は消えない。


 今日は、『Musical Chairs』を聴きながら、寝よう。


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