第31話 MARCHOSIAS VAMP(マルコシアス・バンプ)

「来るべきものはやっぱり来た。快楽と不条理が螺旋状に極まる。ここにグラムロックの封印が解かれる」


 ナレーター関口伸さんの声で紹介されて、僕の視界に飛び込んできたのは、チリチリ頭の厚化粧の人と、これまた厚化粧でポリスハットを被った派手な人たち。なんだこの人たちは!?中学生の僕は、なんだかわからない風貌の人たちを、なんだかわからない紹介ナレーションで、もうなんだかわからなくなっていた。


 これは1989年に放送を開始した「三宅裕司のいかすバンド天国」というアマチュアバンドのオーディション番組。司会は三宅裕司と相原勇で、審査員には萩原健太や超厳しいベーシスト吉田健!伊藤銀次や村上ポンタ秀一などが出演していた。審査員によって選ばれたチャレンジャーが前回の優勝者と演奏曲で審査され、勝つとキング、5週キングになるとグランドイカ天キングになりメジャーデビューというシステムの、勝ち抜きオーディション。

 もう審査員が酷評に次ぐ酷評をアマチュアバンドに浴びせて、審査員がもう見たくないと赤いボタンを押し、どんどん画面が小さくなり、赤ランプ3つ押されると失格。第1回目には、失格にされたことで怒り狂い女性ボーカリストがパンツを脱ぐという不祥事発生!始まりから波乱に満ちたオーディション番組でした。ゲスト審査員に、元ARBの田中一郎や、沢田研二、鳴瀬喜博、土屋昌巳など有名ミュージシャンの他にも、柳葉敏郎や元力士の北尾光司、楳図かずおが出てきたり、もうカオス。


 僕は第1回目の放送は見ていませんが、面白え番組やってるぞ、ボーカルの姉ちゃん怒ってパンツ脱いだぞ、と息子に教えるうちの親父は、父親としてどうかと思うが、それから毎週欠かさず見てました。


 この番組、浜崎貴司率いるFLYING KIDS、今も活動中の沖縄代表的アーティストBEGIN、今もコアなファンが多くメンバー全員が現役のBLANKEY JET CITYなど、数多くのバンドをメジャーに輩出している。今とはメンバーが違い、酷評を受け失格したが、今や日本のマンモスバンドGLAYも、アマチュア時代にイカ天に出ていたのだ。その他にもキングになっていないが人間椅子など、他界してしまいましたが池田貴族率いるremote、顔が半分機械のプレスリー、メカエルビスがいるサイバーニュウニュウというバンドも好きでした。


 まだメンバーも集めてなく、バンド組むぞとベースに触り始めた僕は、絶対この番組出るぞ、と思ってましたが、2年弱で番組が終了してしまいました。


 多分この番組のピークは、アングラ界の重鎮「たま」が出てきた頃だと記憶してます。『さよなら人類』という曲が超ヒットしましたが、初めて見た時は、なんじゃこりゃ、と思うしかなく、リコーダーをしんみり吹いてると思えば、ドラムセットは風呂桶だし、よくわからない人たちがテレビに出てきたぞ、というインパクトを残して、審査員の高評価を得ていました。

 そして3代目グランドイカ天キングが「たま」になるかの5週目、そのチャレンジャーがマルコシアス・バンプだったのです。「たま」のルックスのインパクトが凄すぎてスルーしそうになるが、マルコシアス・バンプも強烈。まだまだ音楽知識が未熟だった僕は、『グラムロック』というのが、どうカテゴライズされるのか全く整理できていなくて、マークボランみたいな秋間経夫と、沢田研二みたいな佐藤研二に目が釘付け。

 結局「たま」が勝ち抜き、グランドイカ天キングになったのですが、通常負けたチャレンジャーは次週出演することがないのですが、審査員長の萩原健太氏かマルコシアス・バンプを仮キングにして次週も出演を提案、その後見事5週勝ち抜き、4代目グランドイカ天キングになったのです!

 元々「たま」と「マルコシアス・バンプ」を比べること自体が無理なのです。超高級フレンチと超高級日本懐石料理を比べるくらいジャンルが違う。

 毎週のようにキングが入れ替り、4週勝ち抜くも接戦の末キングを阻止されたりとした中で、連続でグランドイカ天キングが出たこの時が正にピーク。なんかわからないけど興奮してテレビに齧り付いてました。


 で、このマルコシアス・バンプ。ルックスだけでなく演奏も奇抜で演奏技術が凄い。石田光宏のパワフルなドラムに、鈴木ユタカの唸るギターサウンド、秋間経夫の粘る歌い方にやられてしまうのです。

 審査員に高評価だった『バラが好き』という曲。歌詞の出だし、『最高なのに お前は知らんぷり』のこの『』の部分を歌う時の秋間氏の顔、この『』の部分の『』の時の顔が絶賛!(わかってもらえるかなぁ?)

 もう、どこから声出してるのかなあ、と真似できない声。目の下に星のシール貼ったら、こんな声出んのかな?


 でもでも1番見てしまうのはベーシスト佐藤研二!

 司会の三宅裕司に「こまわり君」と弄られていましたが、やはり沢田研二が好きなようで。

 それにこの人、どーやってベース弾いてるのか全然わからない。まだまだベース弾くといっても8分音符でプンプンプンプンくらいしか弾けない僕にとって、佐藤研二のベースは適当に触ってるだけにしか見えなかった。この人、白い手袋してベース弾くのですが、よく手袋して弦が押さえられるなあ。やっぱ弾いてないんじゃないのか。だけどカッコイイ。なんだ、この人は!


 僕は親父の倉庫から拾ってきた古いプレシジョン。茶色い木目調の塗装が浮いて割れちゃってボロボロで、僕がベースというのにあまり納得してない親父はもう少しきれいなストラトギターを勧めてくるのですが、頑なにベースをやりたいと言い張り、うちにあるベースはそのボロボロが1本。

 色を塗り替えよう、と親父の提案で、近くのホームセンターへ紙やすりとスプレー缶とニスを買いに。


 真っ先に選んだ色はショッキングピンク。佐藤研二のベースは、ピンクのSGだったからだ。

 家に帰り、弦、ネックなど全部外し、ボディをせっせこ紙やすりで磨いて塗装を剥がす。結構時間がかかって完成すると、想像以上に派手。ショッキングピンクな上に、ちょっとラメまで入っていた。それでも時間をかけて塗装したお気に入りのベース。

 が、しかし、やはり古いのですぐにピックアップが全然音を拾わなくなり、すぐに使えなくなってしまった(中学生の僕にはピックアップまで買い替えるという発想も金もなかった)

 その後ベースの弾き方がちょっとわかるようになってから、何度も思い出したように手袋したままベース弾こうと挑戦しましたが、無理です。ちゃんと音が鳴りません。

 つい先日、佐藤研二氏の現在ソロの動画を見ましたが、相変わらず白い手袋をして、訳の分からないウネウネしたサウンドを放っていました、凄い人です。


 マルコシアス・バンプといえば1番のアルバムは『乙姫鏡』。最近やっとネットで見つけて買ったんですよね。このアルバム『FAKE』から始まり、全6曲。中学生の頃は、6曲しか入ってなくて2.500円くらいすると、高えな、なんで10曲入ってねえんだよ、となかなか手を出せなくて、中学の頃に買ったのはメジャーデビューアルバムの『IN KAZMIDITY』は10曲入ってて、このアルバムの『オレンジ色の月』は今でも好きな曲の1つです。

 他にもネットで見つけて、大人なので纏めて取り寄せましたが、やっぱり『乙姫鏡』と『IN KAZMIDITY』、この2枚のアルバムが1番聴いてしまいます。


 大人になって改めてマルコシアス・バンプを聴くと、やっぱり凄いバンドだなぁ、と思ってしまう。現在皆さん、個々で活動中で佐藤研二氏がローリー寺西氏とバンド活動をしているのをネットで見て、ああ、なるほど!と思ってしまう今日この頃です。





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