ちょっとすっきりする我
「話が逸れているが、とにかくあの扉は、お前が開けたのではなく、開いていたのだな?」
「はい、そうです。で、真っ暗な部屋だったので、気付かなかったんですけど、部屋の中心に恐らく私が吸い込まれた玉が、あったのだと思います」
「どのくらいの大きさだった?」
「うーん、目を凝らさないと見えない程度でしたけど、この部室の半分位だったはずなんですよね。危険なものだなっていうのは、なんとなく分かりましたけど、触らなきゃ大丈夫かなって☆」
危険だと分かっていたのに、随分軽い気持ちで中に入ったのだな。
「だからまさかあんな風に吸い込まれて、飲み込まれることになるとは思ってもみなかったですねぇ」
メリナが飲み込まれてしまった玉を見た時、玉は部屋いっぱいに膨らんでいた。吸い込んだから、玉自体が大きくなったのか? それともなにか別の要因があったのか? そういえば我が近付いた時には、吸い込まれるという感じはなかった気がしたが……。
「そういえばあの玉、魔王様の得意だった『
「……!! そう、だな……。言われてみれば」
だが、魔法なら術者が近くにいなければならないし。
何百年も禁忌としてあの部屋があったのだから、それを出し続けることは無駄だし意味がない。
そうでなくても、
「その玉がなんなのか、先代の魔王でも誰でもいいけど、知ってる魔族はいなかったの?」
「禁忌とは、誰も触れぬから禁忌なのだ。我とて、メリナの件がなければ、それを見ることもなかった」
「ふうん、そう……。叶先輩」
「んっ?! なに?」
傍観していたのにいきなり呼ばれて、叶はびっくりしている様子だ。
沙羅は両手を合わせて、少しずつ開いていく。
その中心にある黒い異様な空気を纏う玉を見て、叶は目を見開いて叫んだ。
「それだよ、サラちゃん!! それの大きいのが、いっぱい浮かんでるのを視た!」
沙羅が出したのは『
この玉に物でも人でも吸い込ませるもよし、この玉を別の場所に浮かべてそちらに敵を引っ張らせるもよし。万能の重力魔法で、色も黒々としていて魔王が使うにふさわしい魔法だ。
勇者との決戦で我も使ったが、勇者はこの魔法を使ってはいなかった。我の情報がどこまで人間側に漏れていたのかは分からないが、我には効果が薄いと知っていたからだろう。
勇者は、この魔法をも操るのか。重の力は、魔法の中でも最も闇に近く、普通の人間にはそうやすやすとは使えないものの筈だ。
もしかして、勇者に使えない魔法など存在しないのではないかと、
勇者ってすごい。
……。
あっ、今のは……ち、違う……。勇者を褒めたわけではなくて、すごいというのは言葉のあやだな。
そうだ狡いぞ勇者め!! どんな姑息な手を使ってこの魔法を使えるようになったのだ!!
「由地さんも『
おい、お前仮にも魔族だろう。嬉しそうに勇者を褒めるんじゃない。
「これが、三人の世界の魔法なんだねえ」
触れようとした叶の手を、我は即座に握って止める。
「触るな。この程度の『
「えっ!?」
腕を引っ込めて、叶はブルリと身震いする。
沙羅はゆっくりと魔法の発動を止めて言った。
「あの城で、私と真央が落ちた先が、その黒い玉だったのは間違いなさそうね」
「!! そうか、あの場所は……我がティエムサラガ城の玉座の、真下か」
「あ~、言われてみればぁ」
ツインテールをぴょこぴょこさせながら、それに同意するメリナ。
我と沙羅が、揃ってこの世界にやってきた原因がやっと分かった。
ああ、なんとも清々しい気分だ。
これで、今あの世界の我らがこの世界にいるということが繋がったのだから!!
だが、まだ解けていない謎はいくつかある。
まずことの
他の二人と違い、我が魔力がなく、力も人並みなこと。そしてその現象が起こっているのが、なぜ我だけなのかということ。
それから、メリナが刺客ではないとするならば、全く別の誰かが我を狙っているということで、そいつの正体とか……。
……思ってるより割といっぱいあるな。
名探偵
というか、おかしい。
昨日から沙羅が我の恋人(仮)で、控えめに言ってもとらぶる的な何かが起こると思っていたのに、全くそんな空気ではない。
それどころか、沙羅の男らしい振る舞いに鼓動を高鳴らせる始末。
これでは、いつまで経っても沙羅は、我のことをそういう対象として見ることはないのではないか……?
我が悶々としていると、沙羅はバッと廊下の方を振り返った。
「誰!?」
沙羅が鋭い言葉を投げつけると、驚いたようにガタンッ! と音が鳴る。
全く気付かなかったが、そこに人がいる様だった。
次から次へと、今度は誰だ!!
三階の端っこという
「あっ、多分……」
叶が不用意にドアの方へ近付いて、あっさりと開いてしまった。
おい、ここには幼女の姿のメリナもいるのだぞ!? そんなにあっさり……。
――あっ……。
そこにいたのは髪の毛をチャラ軽い茶色に染めて、モテそうな爽やか
「瞬……」
今、我が最も会いたくない人間だった。
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