頭が痛い我
「そもそもお前、なんで沙羅が勇者だと知らなかったんだ?」
「……え? 私がこっちの世界に来たの……幼い時だったので。その時には、勇者はまだ私の村には来ていませんでしたから、そのせいかと……」
つまり、メリナが死んだのは、我らの転生よりもずっと前だったということか。
「私がフェリナ族の村に行った時、……更科先生……、いえメリナがいなかったのは間違いない。私、あの旅で会った人のことは全員覚えているけど、見た覚えがないもの。それに――」
ちらりとこちらを見る沙羅。
「こんなに、真央に友好的なのはおかしいのよ。フェリナ族は全員、私が魔王を倒すならいくらでも、なんでも協力するって言ってたから。実際、協力してもらったし」
「!!!!」
「ひぎぃ」
「プーッ!!! ぷふっ!! あははは!! げほっ!! あははははっ!!」
驚くメリナ。
知っていても、生きたまま心臓を
話に加われないからか、先ほど沙羅に質問した以外は静かに我々の動向を見つめていた叶が、勢いよくお茶を噴き出して笑い出した。
沙羅の言い分を信じるなら、女の種族は全て……すべからく我の敵となって沙羅に協力したのだ。だから……だか……ぐうう!! 出るんじゃないぞ、涙!!
「笑うんじゃ、ない」
「げほっ! げほっ! ご、ごめんネ……。ゲホッ。そんなにマオ君がその、フェリナ族? に嫌われてたんだと思うと吹き出しちゃったよ……」
「」
我にとっては笑い事じゃないんだぞ。怒りだけではなく、悲しみも乗った痛みを伴う話だ。
うわ~、やだなァ~。怖いなァ~。
この話、聞くのをやめちゃ、だめかなァ~?
「彼女達に協力してもらったのは、魔王城に行くまでの変装と門番や中にいる魔物の懐柔だったんだけど……。まあ、城の中はほとんどサキュバスのおかげで無傷であんたんとこに着けたようなものだったわね」
「どちくしょおおおおおお!! そういうことかあぁぁぁあああ!!」
門番は、二人いた。城の中にも、手練れの魔物たちが配備されていた。
門番の
やつらは、そこらの魔族ではどうにもならないほど強いが、女には……弱かった。オークはまだ分かるにしても、普段女には興味ありませんという顔をして、クールを気取っているヴァンパイアとネクロマンサーも……。アイツら、とんだムッツリスケベ野郎共だった。
ケルベロスは性的な意味ではなく普通に女が好きだった。いつも、女が来るとキュンキュン言いながら腹を見せていたので、別にサキュバスに頼らずとも、勇者に腹を見せて通していたかもしれない。
中で勇者を食い止めようと控えていたはずの他の男の魔物たちは、勇者に
裏切ったサキュバスの力で、裏切るつもりもなかった他の連中も結果的に我を裏切ることになったということだ。
……こんな事実、知りたくなかった。知りたくなかったぁああああ!! ひぎえぇえええ!!
我は錯乱した。
一通り叫んで、このもそもそとした気持ちを吐きだした我は、メリナを鋭く睨み付ける。
ひっ、と縮み上がったメリナはガタガタと震えだす。
「やっぱりお前が! お前が俺を殺そうとしている奴に違いない! ええい! 市中引き回しの上打ち首獄門に処す!! 引っ立てぇい!!」
「お待ちください、お
「お奉行様……?」
沙羅がバカなの? という眼で我らを見る。死ぬほど冷たい。
「私がこっちにきたのは、フェリナ族が裏切る前なんですってばぁ!! なんでフェリナ族は、魔王様を裏切ったんですか!? ブルクシュ……私の母は、そんなことをするような者ではなかったはずです」
「「!?」」
こ、このあんぽんたんな娘が……、あの聡明で美しく妖艶に男を惑わせていたブルクシュの娘……?
だが確かに……、見知った誰かの面影を感じたのは確かだったが。
しょぼんと
フェリナ族はサキュバスの中でも特に優秀な種族だった。
その一人がブルクシュ。
そもそも首都周辺に住まえる種族は、魔族の中でも選りすぐりの上位種族だけだ。 そしてブルクシュは我の
――ズキリと頭が痛んだ。
「メリナ……、あなたブルクシュの娘なの?」
「そうよお」
「ブルクシュの娘は魔王城の地下で行方不明に……。いえ、殺されたって彼女から聞いたわ。城の地下で死んでこちらに来たと言うこと?」
「あ、それについては……えと、そのお……」
なぜかこちらをチラチラと見るメリナ。
頭のズキズキが治まらない。
「どうしたの?」
「魔王様、これでも私のこと思い出さないのかなと思って……」
「思い出す?」
「私、魔王様とかくれんぼをしてて、入ってはいけない場所に入って……。そしたらこの世界に来ちゃったのよ」
「入ってはいけない場所? それって……城の地下、毒で満たされた牢屋の奥……。私が持っていた鍵でも魔法でも、開かなかったあの場所ね?」
確かに城の地下には、地下牢や拷問部屋の他に、魔王とて入ることを許されなかった秘密の部屋があった。だがあの部屋は毒溜まりを作った牢屋の奥にあり、牢屋もその部屋自体にも厳重に鍵がかかっていたはずだ。
だが、メリナの言葉にひときわ大きな音を立てて頭が痛んだ。
「かくれんぼ……」
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