第1話 蒼い瞳の転校生

――学校


 ここ、月ノ下つきのした高校の2年A組教室は朝から賑わっている。期末テストが終わり、来週からは待ちに待った夏休みだ。

 クラス中が夏休みの予定を話し合っている。この中で、”夏休みの宿題”という予定を話し合っている人はいるだろうか。いや、いないだろう。

 僕は昔から8月前にはほとんど宿題を終わらせるような性格だったから、自然と宿題のペース配分を頭に思い浮かべていた。


「おーい、席につけー」


 担任の大蓮寺だいれんじ先生が入ってきた。賑やかだった生徒たちも、それぞれ席に戻っていった。一部の生徒が後ろの席の生徒と話をしているのを先生が注意する。

 それを最後に教室は静かになった。ホームルームが始まった。


「今日は、転校生を紹介する」


 転校生……?

 このワクワクする言葉に、再び教室は賑やかになった。


「コラー! 静かに! アイヴィーさん、入ってきなさい」


 教室の扉がガラガラと開かれ、銀髪の少女が入ってきた。教室は一気に静まり返った。少女は真っ直ぐに歩き、先生の横に立つとこちらを向いた。


「キレイ……」


 女子生徒の一人がこぼれるように言った。

 少女の瞳は蒼く美しく、銀髪は教室の窓から照らされる太陽を受けきらめいていた。とにかく、とてもキレイだった。

 先生が黒板に名前を書いた。


「こちらはメル・アイヴィーさんだ。日本語は多少できるが、まだまだわからないことも多いみたいだ。だから、日本語に関しては手加減してもらえると助かる」


 生徒たちは口々に返事をした。


「よろしくおねがいします」


 アイヴィーさんは小さな声で挨拶すると、先生に指示された席に向かった。ちょうど僕の右斜め前の席だ。

 ホームルームが終わり、先生が教室から出ていくと女子生徒がアイヴィーさんを取り囲んだ。矢継やつばやに質問を浴びせる。

 手加減とは……。

 アイヴィーさんは困りつつもなんとか答えているようだ。


「ユウ、どうした? さっそく一目惚れか?」

「なんだ、シオリか。別に一目惚れじゃないよ」


 そういえば、僕の名前をまだ言っていなかったね。

 僕は四季島シキシマユウ。普通の高校生だ。

 で、僕に話しかけて来たのは本多田ホンタダシオリ。女性のような名前だが、れっきとした男だ。

 最近、香水をつけ始めて、色気づいてる。


「一目惚れじゃないにしては、ジッと見過ぎじゃないのか?」

「いや、なんか目に入るんだよ」

「それを一目惚れって言うんじゃないのかね?」

「さぁ、どうだろうね」


 そんな会話をしているのを知ってか知らずか、アイヴィーさんがチラッとこちらを見た。心なしか、ニコッと笑ったようにも見えた。僕はドキッとして、思わず教室を出てしまった。


「おいおい、どこ行くんだよ」

「べ、別にどこでもいいだろ」


 あてもなく廊下を歩いた。シオリもついてきた。


「なんにせよ、あの子は何かある気がするから、あんまり近づくなよな」

「なんだよ”何か”って。まぁ、僕がお近づきになれることなんて無いだろうけど」


 トイレに寄って、教室へと戻った。


 僕の青春が動き出した気がした。

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