二十七羽 かちどきを上げるんだうさうさ
「説明しようとしたら、ちゃちゃを入れられたな。では、逆に質問だ。このワインのコルク栓と縁日ストローで作った模型が、何に見えるか、答えて欲しい」
そう言いながら、俺は手元で製図していた。ドクターマシロのCADは、使いやすい。ヘキサゴンのタブレットを片手でおおかた操作し、オートで補正してくれる。サグラダファミリアのアバウトさに似ているものがある。
「ふにゅ。ナオちゃん、そんなもの初めて見たの。分からない。二ツ山のお風呂に似ているから、脱衣かごかな?」
がくっ。近いのか遠いのか、不思議な角度からせめられたぞ。
「ボクは、新しい食器を考えてくれたのだと思う。ワンプレートのお子様ランチ風かな」
お子様ランチとな! やはり何となくジャパーンな風が吹くな。
「ミコは、未来の瞳で見たことがあるよ。けれども、今は忘れてしまったの」
能力が落ちてしまっているのだろう。
「自分は、鬼になって判断すると、折り紙データにこれに似たものを登録した覚えがある」
ああ、あの折り紙の変化するのだな。ドクターマシロは、研究者と言うよりも教育者だと話していたから、折り紙への視点の置き方も違うな。
――では、発表しよう。
◇◇◇
「これは、船だ……!」
俺は、皆に見えるように高くかかげた。
「船なんだ!」
もきゅん。ぽん!
「ナオちゃん! どうしたの? うさぎさんになちゃって」
俺は、何故、ナオちゃんが慌ててうさぎさんになったのか分からなかった。ドクターマシロが駆け寄って、抱き上げた。
うさうさうさうさ!
「大丈夫です。自分がお助けいたしますから。ナオ=ライオンラビ殿」
ドクターマシロがナオちゃんの背中をとんとんと優しくする。
「ナオちゃんには、トラウマがあるのですよ。だから、ガラパパパ諸島のここで、営業するのは、お砂のお風呂なのです」
「もしかしたら、泳げないのか?」
皆が青い顔をした。顔の前で手をぶんぶか振って、全否定をする。これは、どう見ても本物だ。泳げないが黒だな。
「安心して欲しい。この船は、そうそう撃沈しない」
「そんなに沈む船しか造れないのでは、困った先輩ですよね」
真血流堕さんは、俺に詳しいからな。
「とにかくだ。船の説明をさせてくれ」
船を回転させ、船首を見せる。
「こちらが、船首だ。この通り、二そうの船が見えるだろうか? 角度を上からに変えよう」
船の上部を見せると、コルクを削って見立てた船が、二そう、並行にくくられている。
「船首と船尾まで、真っ直ぐな船を二つ用意し、材木で固定する。実際は、上部と下部をまとめるように横へもくくる」
「大丈夫かしら? 勇者、佐助様。ありがたいのですが、船で、この島を出ることは難しいと思われます」
女神ヒナギクが言うのだ。この島へ辿り着いて早々に、船の話をしたっけ。俺のシンデレラと言う最高の相棒が、灯台のある沖合でダメになっているのを見た。こちらからも船を出さなければならないが、その船もないことを聞いた。
何度もこのパラダイスから出ようと思っていることも知った。それに対して、俺は、パラダイスなのに、荒れる海の世界へ飛び出して行きたいのか違和感を覚えた。女神ヒナギクの表情にかげりが見えて、心寒いと今でも思う。
「俺は、自分で設計から携わったシンデレラがダメになってしまったことをドクターマシロのデータで知った。新しい船の用意に協力したいと思う」
あの時は、心の武士も許さないだらしのない顔をしたものだ。女神ヒナギクの喜ぶ姿を見てな。ツインテールがふわふわすると、その時は、楽しかったんだよ。素直に。
「そんな経緯もあって、船を造ることに賛成できたら、ご起立願いたい」
俺は、船の模型を置き、目をぎゅっと瞑った。
がたがたと音がする。もしかしたら、帰ってしまったのかも知れない。ナオちゃんもうさぎさんになってしまったことだしな。
顔の前で手を組んでいたのに力が入る。
「俺が目を開けてよくなったら、お知らせしてくれ」
真血流堕さんと女神ヒナギクの声がこぼれる。
「せーの! おつかれーしょん!」
……それでサインを送るのか。まあ、ありがとう。
俺は船を却下されたって、ここで生涯を終えてもいいな。うん。納得したか。ならば、瞼を起こす時が来たのだ。
◇◇◇
俺は、心の中で泣いた。
「感謝しかないよ……」
再び、うるうるの波が押し寄せて来た。
あつい目頭を押さえる。
しゅっと立っているミコ=ネザーランドさん。
これから行けるよとばかりに携行食を持って来てくれたユウキ=ホトくん。
綺麗な石のテーブルで後ろ足立ちをしているナオ=ライオンラビちゃん。もう、もきゅって泣いてない。
後ろには、ドクターマシロ=ダッチ。何故か俺の視線からじっと離れないので、逸らすのが大変だった。
最後に神々しい女神ヒナギク。
「これから、困難も多いと思うが、どうか一緒に行動して欲しい。それでも辛くなったら、声を掛けてくれよ。休んだっていいんだ。何も恐れることはない」
きゅっもきゅっとドクターマシロの影に隠れて、不思議な音が聞こえた。やはり、ナオちゃんだった。情緒不安定なのかな。
「あの……。あたしもいいと思う」
そう言うと、もきゅっと素早くナオちゃんが、うさぎさんになってしまった。ライオンラビットさんに。
「何があるのだ?」
ナオちゃんとの出会いから振り返ってみる。
「ああ、分かったぞ!」
大きな声では言えない。例の人買いによるものだろう。この島には安寧ではないのか。
ナオちゃんの他にどんな被害があったのだろうか? ここに、美少女が五人もいると前もって知っていたのだろう。
組織的犯行だろうか? ならば、ここへ来るルートがあるはずだ。人買いから、航路を聞き出せると助かるだろう。しかし、日本へ帰れるとも限らないな。
「そうか、辛かったね……」
俺が、ナオちゃんを撫でようとしたら、ドクターマシロが横から入って、ライオンラビットちゃんを抱っこしてばいばいしてしまった。もきゅっと去って行くナオちゃん、俺は寂しいぞ。
ナオちゃんにかちどきを上げて欲しいぞ。あらゆる過去を振り切って。
◇◇◇
「では、皆。この島は、パラダイスと言いながら、陰謀渦巻く人買いの組織があったり、チャペルでキノコンの
俺は、船の模型をプロジェクターにかけて、即席で作った図面を展開する。
「これを見てくれ。灯台の沖合にある撃沈シンデレラのおおよその図面だ。このガラパパパ諸島への上陸記念に残して置く。船が甘かったと言う印に。そして、三神真血流堕さんと本城佐助の足跡として」
ポインターを置き、真血流堕さんに次のスライドを頼んだ。
「これは、新しい船の立面図だ。そして、次、お願いいたします」
細かくは書いていないが、造船に必要な事項は組み込んである。
「これが、完成予想図だな。まあ、外観の色は、このウミガメ色から変えられるよ」
俺は、拳を振り上げる
「俺達の未来を描くんだ……!」
おーっと言う声とともに、かちどきを上げた。
「おつかれーしょん!」
「おつかれーしょん!」
「うさ! うさささ!」
がんばらないとな。
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