三羽 ありがとうミコさんの真心
「わらわは、ここを動けぬ。ここを離れたら、未来の瞳の力が失せて来るのじゃ」
ミコさんから特別な力を持っているがゆえの寂しさを感じる。宿命なのかな。俺は、お節介にもいつか助けたいと思った。
「ミコ様。私が、勇者、佐助様を大樹様までお連れしますわ。大丈夫です」
女神ヒナギクは、バレエのご挨拶をした。実に優雅なものだ。
俺の姪っ子が
そんな訳で、神官のミコさんは、灯台は大切なところだから離れられないらしい。女神ヒナギクと大樹様へ向かうことにした。
ミコさんが手元にある羊皮紙の本をめくる。ヒナギクが先にコツーンと灯台の階段を響かせた。俺は、真血流堕アナが投影された辺りを見ながら佇んでいた。
三人が三差路に立ったように、別々を向く。
早く真血流堕アナと合流しようと、ミコさんのところを去る時、大切なことを思い出した。俺は、礼一つ言っていなかったのだ。心がちくりと刺さった。
「真血流堕アナについては、力を貸してくれてありがとう……。手がかりを得られて、本当に助かったよ」
「わらわは、未来の瞳を持つが、今まで悪い予知しかできなかったのじゃ。初めて、本城佐助殿の役に立つことができて幸いじゃ」
俺の方が照れるじゃないか。
「女神ヒナギクもありがとうな」
「いえいえ、勇者、佐助様のためですもの。遠慮なさらないでくださいね」
プライスレス女神スマイルは、いつでも輝いていて可愛い。何て恋に落とされないぞ。
「そうじゃな。これから山道を行くことになるのじゃ。これを持て」
「これは! 靴ですか。流されて困っていたんだ。ありがとう、ミコさん。羊の皮のようですが」
そこまで話していて、気が付いた。ミコさんの手元に羊皮紙の本がない。何が起こったのか。
「毎日、毎日、ここは孤独な灯台なのじゃ。皆の足も遠のいてしまったしの。本城佐助殿が、久し振りの客人なのじゃから、遠慮するでない」
「ミコさん……」
俺は、ありがたいと軽々しく使っていないだろうか? 不遜ではないか。ちょっとは、殊勝にならないとな。
「東京ですさんでいた俺にも、こんな気持ちになることがあるのか」
どうして、東京の彼女から去ったのか、俺の気持ちは、ふるさとへ帰っていた。心は巡り巡って、時間だけは取り戻せないのだなと思いふけってしまう。
「今度は、いい知らせを持って来るよ。ミコさん。お互いに幸せになりたいからな」
俺は、ミコさんに後ろ髪を引かれてしまったが、灯台を後にした。
◇◇◇
女神ヒナギクと俺が灯台から出ると、少し日が傾いていた。腹時計にして二時だろうか。
俺は、真血流堕アナの消息も分かって、常夏パラダイスの綺麗な風景を見る位の心の余裕ができた。気持ちよく伸びをして、ため息をつく。同じく女神ヒナギクも伸びをして、やわらかに体を反らせた。
い、いかん! 前略、
「勇者、佐助様。早速、大樹様へ向かいたいのですが、転ぶといけないのでお手を繋ぎませんか?」
女神ヒナギクは、俺の腕に巻きつこうとした。腕を組むのかとの突っ込みは可哀想だから喉の奥へと飲み込んだ。
「ダメだよ。うちには彼女がいるんだから」
彼女のことは、少々強がりだがな。
「いけずー」
お子様か、女神ヒナギクよ。お口の前で指でバツを作ってどうする。可愛くしても惚れないからな。
「俺は悪くないぞ。パラダイスで浮気をする方が悪いだろうよ」
俺は気まずい雰囲気を作ってしまったと思った。いつもこうして人と上手く行かない。相手と喧嘩をすれば、諸刃の剣で悔いが残る。
「勇者、佐助様。お気になさらずとも大丈夫ですわ」
「そ、そうか。傷つけてしまったかと思ったよ」
女神スマイルは、いいなあ。
「うさうさフォーリンラブは、続くのです」
えっとー。女神ヒナギクには困ったものだよ。
◇◇◇
暫く歩くと、景色が変わった。
早速、羊の革靴が役に立った。砂浜とでは、足元が全く異なる。岩肌にコケもむし、せせらぎが削り取って行く。石は木漏れ日を散りばめており、美しい。清流のせいか、お魚が一匹もいないのな。貝と同じかな?
ケケー。ケケー。
上空から俺達の方へ低空飛行して来たくちばしの小さい色鮮やかな鳥を見た。
「けたたましいのは、鳥の声か? 女神ヒナギク」
「ケケー
よかった。貝一つない島かと不安だった。鳥も飛び交い、果物も実るのだな。お腹が空いているから、食べ物のことを考えてしまう。女神ヒナギクやミコさんは、何を食べているのだろうか。
「この
大きく目立つ岩だ。これなら目印になる。今まで光が射していたが、段々と上が暗くなって来た。
ケー。ケケー。
「はうあばあ! お、驚かすなよ。鳥だろう」
「勇者、佐助様。この上をご覧ください」
俺は首肯した後、黙って上を見上げた。くまなく枝葉を伸ばしているのに感嘆した。
「これが、大樹様の大きなお体の一部ですわ」
「いよいよだな。真血流堕アナ。毒キノコでらりっていなければいいが」
◇◇◇
暗い枝葉の下を進んで行くと、大きな幹が視野に入った。ツタが絡まって緑に染まっているが、本来は深い茶なのだろう。
「おーい。おーい」
声を掛けても、分からないな。ここは
「本城佐助、見参! 真血流堕アナの騎士なりよ」
「佐助先輩、真血流堕です! ここですよ。上にいます」
俺は、心が弾んで、常夏中の常夏になっていたココナッツ状態になる。佐助、混乱するでない。嬉しくて、ちょっと泣きたくなった位だよ。
「真血流堕アナか。今、行くからな」
さてと、ツタの絡まった幹よりよじ登ろうとしたが、何となくツタがざわざわしている。
ヨソモノハ、カエレー。カエレー。
「うぐふあ! もぞもぞ動いて歌うのか!」
「勇者、佐助様。パラダイスの者ではないので、拒絶されてしまったのね。くすん」
「くすんじゃないよ。だったら、どうして真血流堕アナが上にいるんだよ」
「それは、お腹が空いているからでしょう?」
女神ヒナギクは、再び胸の谷間にあったサングラスをかけた。
ピッ――。うさうさパラダイス。うさうさパラダイス。
「うさうさ! ヒナギクよ。ユウキ=ホトくんかしら」
「こちら、ユウキ=ホト。ヒナギクくん、そろそろ、ランチだと思いましたよ」
サングラスの横にあるアンテナが通信スイッチだろうか。女神ヒナギクがアンテナを短くすると、こちらを向いて口元をほころばせる。だが、目元が笑っているのかは、サングラスで見えない。
「美味しい獲物があるらしいわよ」
それって、それって。真血流堕アナが無事か分からないだろう。魂だけの叫びだったのかよ。
今回は、俺が叫ぼう。
「おつかれーしょん!」
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