第3話
なんだよ810パーセントって! ガバガバ設定にもほどがあんだろうがよ!
「ヤクザのケツ奴隷として余生を過ごすだって? どこをどう転がったらそんなこの世の地獄みてーな目に遭わなきゃいけねえんだ! それに810パーセントってなんだ!? アニメ系無認可学校の就職率か? 数字がうさんくさすぎる!」
「私の介入により、死の原因であったトラックからは命からがら逃げおおせることが出来たユトリン様。けれどその疲れからか、不幸にも黒塗りの高級車にぶつかられ、因縁をつけられてしまうのです。車の主、暴力団員谷岡に言い渡された示談の条件とは……」
「いや、そこで語尾を濁さないでくれる!? あと、俺がぶつかられてんのになんで示談を持ちかけられてんの? 普通は逆じゃないか?」
「いやあ、そこはそれ。相手は無法者ですから。それにアホで意気地無しなユトリン様はすっかりヤクザの言いなりになってたんですから仕方ないですよ。騙される方が悪い」
アホとか言うな。ヤクザに因縁付けられて正気でいられるわけがねえだろ。
「しかも運の悪いことに暴力団員谷岡は組長の息子でした。谷岡は性格にも難があり、そのうえ『男癖』の悪さはとみに有名だったのです。こうして、ユトリン様は谷岡に穴という穴を全身余すことなく攻められたわけですね」
「俺は童貞を失う前にケツ穴の処女を散らされるんだな……」
「ズタボロにされただけでは終わりませんよ。谷岡組の男色家達から気に入られてしまったユトリン様は定期的に呼び出されるようになります。ある日はゲイポルノビデオの出演を強要され、またある日はヤクザのケツ奴隷として生きていく羽目に。挙げ句の果てにはビデオ撮影時の映像がインターネット上に広まり、一生ネットの晒し者として」「もういい、やめてくれ。聞きたくない!」
この世のどんな出来事よりも恐ろしい、地獄絵図じゃねえか……。
「その……まあ……。良かったですね! だってほら! 『薔薇』色に満ち満ちた素晴らしい人生じゃないですか!」
「うまいこと言ったつもりか!? 薔薇の意味がまるで違うだろうが!」
俺が何したって言うんだ……。何でこんな目に……。
「では、現世に舞い戻るプランは却下ということで?」
「当たり前だ! そんな話を聞かされてのこのこ生き返る馬鹿がいるかよ!」
はあ……とため息をつく女神様。めんどくさそうに頭をぽりぽりとかいている。
「結局、転生かあ……。気乗りしないなあ……」
「やる気があろうがなかろうがやってもらうぞ。俺の人生がかかってるんだからな」
「ユトリン様。そんじゃ聞きますけどね。ぶっちゃけたところ、転生したら何になりたいんですか?」
「何にって……。そうだなあ、ベタだけど勇者とか?」
「別に人間じゃなくたっていいんですよ。ドラゴンでも魔王でも、なんだったら無機物でもイケます」
「それって無人トラックの時みたいに寿命が一週間だったりするんだろ! お断りだ!」
「いやいや、あれは正規の手順を踏まない乱暴なやり方だったからですよ。ちゃんと転生さえできれば、人間のとき以上に賢く生まれて長生きも出来ますし。実際、人外の転生を望んだ方も大勢いらっしゃいます」
どうにも信用ならんが、もし仮に人間以外の何かになって、第二の人生を送るとしたら……。
「じゃあ『10《ヒトマル》式戦車』ってのは?」
「戦車? まあ出来なくはないですけど。好きなんですか?」
「ああ」
俺は引きこもりだが、ミリタリー系には昔から目が無かった。その中でも国産最強と謳われるその戦車に、俺は一目で惚れ込んだんだ。
10《ヒトマル》式戦車。日本のお家芸である小型軽量化を成し遂げており、それでいて他の追随を許さない火力をも兼ね備える。YouTubeでも百回以上はその演習風景を見た。姿は小さくても、でっかい戦果を挙げることのできるすごい奴なんだ。
そうだ、思い出した。かつて俺が思い描いていた、将来の夢を。
「俺さ、本当は陸上自衛官になりたかったんだ」
「へえ」
「そもそも、物心ついた頃から戦車乗りに憧れてたんだ。それが高じて九九を覚えるよりも先に、モールス符号をぜんぶ暗記したりとかな。今でも陸自ではモールス符号を使ってるって聞いたからさ」
「ふーん」
「おい。なんだよその生返事。完っ全に興味ゼロだな! 真面目に話してるんだから、少しくらいは合わせてくれよ……」
「ん。いやいや、ちょっといろいろ平行して検索してたからですよ。ちゃんと聞いてましたよ。あれでしょ、ユトリン様が将来なりたいのは、えーっと。ガンダムのパイロットか何かでしたっけ」
「違えよ!」
「ガンダムのアニメに出たかったら声優さんにでもなればいいんじゃないですかねー。そういう来世が良かったんですか?」
ちっとも聞いてねえ。でも、目をつぶって何やら考えてる風な素振りは見せている。うまいことやってくれるんだろうな……。
「あっ」
おい。今「あっ」って言ったぞ。それも多分、ミスったときの「あっ」だ。
「ユトリン様……。そ、その……。あともう少しだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか……?」
「なんだよ?」
「二輪駆動と四輪駆動とでは、どちらがお好みですか?」
「そりゃ、4WDのほうだろ? 悪路でも踏ん張りが効くのは断然そっちだし。自動車免許も持ってない俺だって、それくらいは知ってるぞ」
「そ、そうですかーハハハ」
乾いた笑いを見せる女神様。すっげえ嫌な予感がする。
「あと、ユトリン様は劇画タッチのリアルな絵柄とアニメっぽい絵柄とでは、どちらがお好みですか?」
「うーん。どっちも嫌いじゃないが……。強いて言えばリアルな方かな。あんまりデフォルメし過ぎてるやつは感情移入がしにくいから」
「なるほどー。かしこまりました。では、確かに今のでユトリン様のご希望はすべてうかがったということになります。私の仕事は確かに完遂いたしました」
「は? 車や絵柄の好みを聞かれただけなんだが。ぜんぜん終わりじゃねえぞ。勝手に仕事やったつもりになるなよ」
しかし、急に足下から力が抜ける感覚がした。立っていられない。それに、この妙な浮遊感みたいなものはなんだ?
「で、ではー。ユトリン様。来世でのゴケントウヲ、オイノリシテイマス」
あまりにも心がこもってなさ過ぎて片言に聞こえた。
まさか、だよな。
俺……このまま転生するのか!?
目が覚めると、妙に視点が高かった。それに、身体から力がみなぎるようだ。今だったら、どんな重い荷物だって軽々と運べるような気がする。
そう。今の俺は、言うなれば人間トラックだ。
……ってか俺の身体が、トラックになってる!?
しかもこれ、デコトラじゃねえかッ!!
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