男は脱出できるのか23
千粁
男は脱出できるのか23
まずは落ち着こう。
こういうゲームの基本は情報収集からだ。
遠くに見える町に行って町の人に話を聞いてみよう。
俺は肩掛け鞄を背負い直し町に向かって一歩踏み出した。すると。
テレレレ〜! という電子音とともに『コウシロウAが現れた。コウシロウBが現れた。コウシロウCが現れた』というメッセージが表示され目の前に死んだはずのコウシロウが現れた。
それも三人同時に現れた!
身長は小学生の時のまま。小さいままだ。
「えっ!? コウシロウが三人っ!?」
よく見ると解像度が悪くてコウシロウの輪郭がカクカクしている。
続けて『コウシロウAは様子を見ている。コウシロウBは様子を見ている。コウシロウCは様子を見ている』というメッセージが連続で表示される。
「なんだこれ! どうすればいいんだよ!」
こういうゲームってモンスターを倒していかなきゃならないんだよな。
という事はコウシロウを倒すしかないのか?
それには武器が必要になるけど、持っている武器はリボルバー式の拳銃だけ。
弾丸は六発装填されていて安全装置を解除して引き金を引けば撃てる。
これでコウシロウを殺せっていうのかよ。
でも六発しかないからこんな序盤で使っていいのかどうか迷っていると、目の前に選択肢が表示された。
たたかう
ぼうぎょ
どうぐ
にげる
▽
おお、基本的な行動はここで選ぶんだな。
まだ選択肢の続きがあるみたいだ、どれどれ。
はなす
とらっくのまえへつきとばす
でんしゃのまえへつきとばす
ぜつぼうのたにへつきとばす
なんだよこの選択肢。
ふざけてるとしか思えないな。
まあいいや。
話せるならこれを選択だ。
俺は『はなす』を選択して三人のうち右のコウシロウと話す事にした。
「あ、えーと、ひさしぶりだなコウシロウ」
『コウシロウCは戸惑っている』
戸惑った!? じゃあ他になんて言えばいいんだ?
『コウシロウAは逃げ出した。コウシロウBは逃げ出した』
うわ、コウシロウが二人逃げ出しちゃったよ。
話すという選択は間違いだったのかもしれない。
『コウシロウAは100ゴールドを落とした』
ゴールドを落としていったよ。本当にゲームっぽいんだな。
まだ一人残ってるから諦めないぞ。
「な、なあコウシロウ。一緒に町に行かないか?」
『コウシロウCは考え込んでいる』
お? 考えてるってことはもしかしたら連れて行けるのかもしれない。
もう一押ししてみるか。
「お前こういうゲーム好きだったろ? また一緒に大冒険しようぜ。昔二人でやった勇者ごっこのようにさ」
『コウシロウCは仲間になりたそうにこちらを見つめている』
よし! ということは選択肢が増えているはず。
はなす
なかまにする
やっぱりあった。
それに苛つく選択肢は消えてるな。
じゃあこの『なかまにする』を選択っと。
『コウシロウCを仲間にした』
『コウシロウはパーティーに加わった』
よっしゃ! コウシロウをゲットだぜ!
この調子でこのゲームのような世界をクリアすればいいんだな。
そして俺はコウシロウを引き連れて町を目指して歩く。
あと少しで城下町の入り口に到着する。
町は周りを高い城壁で囲まれていて入り口には金属の頑丈そうで大きな扉。
中に入るには門衛の許可が必要らしい。
城下町に入る為に解像度の低い人達が列を作っている。
ここでデッデデー♪というゲーム音とともにメッセージが表示された。
『コウシロウの好感度が10になりました』
え、特に何もしてないのに好感度が上がったぞ。
もしかしたら一緒に冒険するだけで好感度が上がる仕組みなのかもしれないな。
その直後頭痛とともに脳裏にコウシロウの声が甦る。
『俺さ実はアユの事が好きなんだ』
俺はずっとコウシロウのアユに対する態度を見てきたからよく知っている。
まだコウシロウの声には続きがあった。
『でも、エマの事も……』
え……?
エマの事、も?
そういえば学校からの帰り道でコウシロウがそんな事を言っていた。
コウシロウがそこまでいいかけた時にアユが俺達に追いついてきたから、コウシロウがエマの事を実際どう思っていたのか聞けないままだったんだ。
ずっと忘れていた記憶を今になって思い出すなんて。
これってコウシロウの好感度が10になったからだよな。
するとコウシロウに限らずこのゲームの世界に出て来るアユやエマの好感度を上げると、俺が今迄忘れていた記憶が甦るっていうのか?
なんだか寒気がする。
思い出すべきじゃないのかもしれない。
でも思い出さなきゃいけないという気持ちも強い。
そうして考え込んでいると門衛に声をかけられた。
『城下町に入るには50ゴールド必要です。払いますか?』
俺は迷わず『はい』を選択した。
金属製の大きな扉が徐々に開いていく。
俺はコウシロウと共に城下町へと一歩足を踏み入れた。
男は脱出できるのか23 千粁 @senkilometer
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