第16話 やりすぎファーマーは重ねて提案する

「今度は最初から秘密兵器出すんだね」

「また襲われてはかなわんからな。先に味見してもらった方がいいだろう」


 主様がアイテムボックスから袋を取りだし、手を入れた。

 抜いた手のひらにはトウモロコシの餌が乗っている。


「おっ、さすがだな。もう来たぞ。匂いでも分かるのかな?」

「…………っ!? ひぃぃうっ!?」


 ガレスヌーも怖いけど、ガレスクックも怖いっ!

 でかくて怖いっ!

 何匹もの真っ白な巨体が地響きを上げて迫ってくる。


「おや、近付いてくると意外と大きいな。確か腰ぐらいだったと思っていたが……」

「だから、それ絶対に違う動物だって! ガレスクックもみんなこんなだから! うわっ、やだっ、いまみんなこっち見たっ!? う、うちは餌じゃないよー……」


 間近で見るとでかい。

 ほんと、でかっ! 主様の倍は背が高い。

 不気味にコッコォ、とか言いながら囲んだ状態で手の上をじぃっと見つめている。目ざといやつは主様が持つ袋をにらんでいる。

 しかも、明らかにこっちを見下した感じ。

 さすがは悪魔の末裔……感じ悪い。


「うわっ――」


 油断していたら羽を一匹に咥えられた。羽はマナでできているから痛みは感じない。でも、とんでもない力で上下に振られる。

 うちは餌も持ってないのに! これが格下いびりですか!?


「フラム!」


 慌てて対応が遅れたうちより先に、主様が動いた。

 クックに飛び込むようにジャンプし、胸のあたりへ。

 そして、拳を引き絞っての――パンチ!


「グゲェッツ!?」


 剣や刃物を跳ね返す分厚い羽毛もなんのその。拳はガレスクックにダメージを与えたようだ。にぶい音とともに巨体が吹き飛んだ。

 吐き出すように、咥えられた羽が外れ、自由になったうちは主様に抱きかかえられて地面に。

 うわっ、これいいかも。

 悪党から救い出されたお姫様みたいじゃん。

 で、鳥はというと――


「…………コケッ」


 あっ…………息絶えた感じです。

 体を起こそうとしてしたところで力尽きちゃったみたい。たぶん何が起こったのかわかんなかっただろうね。

 そういえば最後に目が合っちゃったんだけど……


 ――モロコシを一口食べたかった、って聞こえたような気がした。

 嘘です。


「フラムに悪さをするやつには罰を与えないといかんからな」

「…………ちょぉっと厳しい罰かも……死んじゃったし」


 うん。

 でも主様に殴られたらこうなるよね。クックの胸のあたり、穴空いてるし……


「待たせて済まない。少しばかりイタズラっこを懲らしめてやったんだ」

 

 主様がニコニコと残りのクック集団に歩み寄っていく。

 ほんの少し、全匹が後ろに下がった音がした。

 まさに『死を運ぶ者』が近づいてくるのだ。クックはようやく危険度を理解したのだと思う。

 どのクックも憐れなほどに態度が違う。

 おい、お前先に殺って食い物を取れよ……とか煽りあっていたかのクックは、全匹が直立不動に変わった。

 まるで調教師と獣のような関係だ。

 今なら「了解です! ボス!」って言いながら火の輪でもくぐりそうだ。


「おっ、お前たちは協力的な目をしているな! 俺には分かるぞ。そんなみんなには、秘密兵器の…………トウモロコシだ」


 まあ、都合の良いように勘違いしてる人もいるけど。

 主様は脅迫をしているとは一切思いもしないらしい。

 にこにこと、ガレスクックの前に歩いて行っては一つかみ、隣に移って一つかみ。餌を提供している。

 だが、まだ誰も口を出さない。


「よーっし。食べてくれ」

「コォッ」


 返事可愛いっ! 完全に手なずけるとこんな感じなんだ!

 でかくて怖いけど、懐くと可愛い!

 誰もが、主様の合図でトウモロコシをつつき――

 そして……気絶した。


「おやっ? ヌーと一緒でここの草原のやつは気絶する演技がうまいな」

「…………ほんとに気絶してるんじゃない?」


 そんなにうまかったかと言いながら、主様が一番手前のクックの頭をバシバシと叩いている。

 …………大丈夫かな? 気絶したままバウンドしてるんだけど。

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