第14話 やりすぎファーマーは一からやりすぎる
「ミジュ、すまないが今日は家を空ける。フラムも連れていくからあとを頼む」
「どこに行くのですか? またシロトキンさんのとこですか?」
「いや、フェルデ草原だ」
「フェルデ草原っ!? あんなに遠いところまでっ!?」
主様に呼び出されたミジュが驚いた顔を見せる。
フェルデ草原。
魔王城とはまた別の意味で恐ろしい草原だ。山をくりぬいたような標高高い隔絶された空間で、縄張り争いを強いられる環境の中で生き残った種族が残る場所。
草原ゆえに肉食の動物はいないが、桁外れに強い草食動物がいるのだ。
そこら辺の狼など体当たりで殺せるような猛者たちが。
「帰りは<テレポート>が使えるから大丈夫だ。この前の街で可能だと分かったからな」
「それは分かりますけど……あんな地獄のような場所に何をしに行くのですか?」
「ヌーを捕まえてくる。ついでにニワトリも、だ」
「…………えぇっ!?」
ミジュが素っ頓狂な声をあげて目を見開き、絞り出すような声で問いかける。
「あそこにいるヌーとニワトリは、どちらもガレスの末裔のはずですが……」
「そうだ」
「そうだ、って言いましても……主様、大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
「……だって、あんな悪魔の血を引く獣が死闘を繰り返すような場所に出向くなんて……」
「ミジュ……うちもそれ言った」
心配げにこちらを見たミジュに、うちは肩をすくめて答えた。
嘘か、本当か、フェルデ草原に放り込まれた種族は悪魔の血を引く獣だという。大昔は悪魔が見世物として自分の僕を戦わせていた、というおとぎ話が残っている。
凶悪な獣が闊歩する場所だ。広く知られているけど、自分から足を運ぶバカはいない。死ににいくようなものだ。
仮に行くとしても、目的は銀色に輝く卵が欲しいか、驚くほど栄養価の高いヌー乳が欲しいかのどちらかになる。まあ、夜寝ているうちに忍び込んで手に入れるしか方法がないんだけど。
卵はまだしも、ヌーの方なんて、乳を絞った瞬間に気付かれて殺されることの方が多い。
どう考えてもリスクの方が高いのだ。
それを……主様は捕まえてくるとか言ってるし。
「主様、もしかしてツティが言った『土をよくするには堆肥』という言葉を聞いて、そんなことを考えたのですか?」
「そうだ。あのツティの一言には納得した。俺は確かになんとなくで土壌づくりを始めてここまで来た。だが、よく考えればせっかくダンジョンを自由に使えるようになったのだ。もう一度土からこだわっても良いと思ってな」
「……でも、よりにもよってガレスヌーとガレスクックは無いと思いますけど……」
「そんなことはないぞ。昔、読んだことがある本にも書いてあった。『うまい卵やうまい乳を生み出す獣は良いものを食べている』とな」
「その一文で、なぜ捕まえることに決めたのですか?」
ミジュが不思議そうに首をかしげた。
主様がそれを聞いてにやりと笑う。
「良いものを食べていれば、糞も良いものだろう」
「…………へっ?」
「糞が良ければ、良い堆肥が作れる。当然のことだ」
「……………………え? そ、そうでしょうか?」
「間違いない」
ミジュがすごい勢いでこっちを見た。ぽかんと口を開けているが、その目は明らかにうちを非難している。
口パクで必死に伝える。
――何度も言った! と。
うちだって止めたよー。それは思い込みだって。でも、主様の頭の中ではそうなっちゃってるんだって。
だから、せめて危なくないようにうちが近くで見守ろうって思って、ね。主様一人だと何するかわかんないでしょ?
うちはミジュの側に近付き、声を潜める。
「…………ミジュ、何が言いたいかわかった?」
「……なんとなく」
「まあ、そういうことだから」
「でも、それだと結構、数がいるんじゃないの? ヌー糞、と鳥糞用ってことでしょ? 一匹でもかなりの激闘になると思うけど……あんな獣が大人しく連れて来られるとは思えないし」
「ま、まあ……とりあえず今回は主様の気持ちだけでも満足してくれれば……って感じかな……」
「フラム姉さんも大変なのね……」
「分かってくれる? 主様よりうちの方がやばいかもしれないの。捕縛に使える魔法とか使えないし……」
「いざとなったら焼きクックにしてでも主様と自分を守って…………それと、背後からガレスクックにつつかれて死ぬとかやめてよ……ほんとに」
「さ、さすがにお姉ちゃん、そこまでドジじゃないから」
「そう思ってるのは姉さんだけってことも忘れないで」
「二人ともどうした?」
「「えっ!?」」
ため息をついたうちらを主様が不思議そうな顔で見ていた。
完全な不意打ちに、声がひっくり返ってしまう。
だが、何とか取り繕う。
「……えーっと、色々大変だろうなぁって……」
「そ、そうなんです。色々大変だなぁって……」
「確かにな。何かと気性の荒い動物たちだ。心配させてすまない」
「い、いやぁ……そうじゃなくて、近くにいる鳥とウシでじゅ――いてっ」
「ん?」
うちは物凄い勢いで「なんでもない」と首を振った。
ミジュにお尻をつねられたからだ。今さら余計なひと言を言うな、と。
どういう意味に捕えたのか、それを見て主様が苦笑する。
「さっきは捕まえると言ったが、できれば動物たちには進んで仲間になってほしいんだ。戦うことなくな」
「……………………はぁ」
うちとミジュの気の抜けた言葉が同時に漏れた。
だって、それはないわ。
どう考えても無理。言葉通じないんだし。捕まえようとしたら暴れるって。
「だが、いざというときのこともある。だから今回は秘密兵器を用意してみた」
主様はそう言って、自信ありげにテーブルの上に秘密兵器を広げた。
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