無自覚無敵のやりすぎファーマー~つき合う妖精は大変です~

深田くれと

第1話 やりすぎファーマーはやりすぎる

 はじめまして。火妖精のフラムです。

 肩乗りサイズで背中に小さな羽が生えているのがチャームポイント。少し釣り目気味なのはコンプレックス。

 わけあって、うちはアンディ様というちょっと変わった主人と山間の畑を耕して生活中。

 ここも静かな場所だったけど……最近はひっきりなしに変な客が来る。

 それも変わった人たちばっかり。


 今も目の前にすごくかわいそうな集団がいる。

 盛り上がった筋肉をこれでもかと見せつけるミノタウロスの皆さんだ。使い込まれた斧と古い盾。何人も手にかけてきた証拠に、武器には血糊がこびりついてる。

 恐ろしい魔王がいなくなったから、次は自分こそがーって人達みたい。

 こんなへんぴな山の中までほんとお疲れ様。


「……つまり、俺の大事な畑を荒らすということか?」


 畑の持ち主の主様が視線を向けた。

 茶色い短髪によく日焼けした肌。農作業中だったので頭には黄色の麦わら帽子。手は土まみれ。

 年齢は不明だけど見た目はすごく若い。

 濃い茶色の瞳には呆れた色がありありと浮かんでいる。


「ばかかお前、荒らすのは後だ! まずはため込んでる肉と金を出しな。探すのも面倒だしな」

「さっすが、次期魔王の呼び声高いザラン様! 見事な作戦!」

「こいつに案内させて食い物と金を手に入れたあと、目の前で畑を踏みにじるんですね! 最高に鬼畜っす!」

「そうだろそうだろ! ふはははは! こんな雑魚はワンパンで殺せる。山奥に隠れ潜んでいたのがついてなかったな。俺の領土にする前に存分になぶってやるぞ。あっははは!」


 いつものことだけど、雑魚認定。ついでに畑荒らし宣言。

 今回も犠牲者が出ちゃいそうだなぁ。

 こういうやつらって毎回同じパターンなんだよね。


「お前たち……肉と金にしか興味が無いのか? 野菜は? 作っている野菜には少しばかり自信があるんだが……どうだ?」

「ああん? 野菜なんてクソだ。芋虫が食う食べ物だろうが。……まだ状況が分かってないらしいな。俺達を目の前にして……って、何をやってる?」


 次期魔王を自称する一番体の大きなミノタウロスが訝しげに目を細めた。

 その先では、主様が空間に空いた黒い穴に手を突っ込んでいる。


「食べてくれれば歩み寄れるかと期待したが無理そうだな。お前たちのような食わず嫌いは元々嫌いなんだ。畑まで荒らされるとなると黙っておれん。仕方ない。気は進まんが対処しよう」

「……ばかかこいつ、何をしてんのかと思えば今頃武器を準備してやがるのか……いいぜ。精いっぱい抵抗してみせな」


 主様……まーたアレか。

 武器なんて持ってないから仕方ないけど。

 って、今日は一段と固そうで……えっ? もう投げるの!? 名乗ったりしないの?


「どんな武器かと思えば……そんなものを投げっ――ぐぼぉぉぉぉっぉっ!!!!!」

「えぇっ、ザラン様っ!?」

「ただの投石ですよね!? 俺の腹筋はシックスパック、が口癖のザラン様がただの人間の投石でっ!?」


 おぉ、見事な一撃がボディに。

 やっちゃったよ。

 軽く振りかぶって投げただけなんだけど、あれがおかしいくらいに強烈なの。

 だって……魔王だって……おっと、これは秘密だった。危ない危ない。うっかり人前で口を開けば、うちも主様にやられてしまうかも。


「てめぇ……何を投げやがった!」


 主様は虫を見る目で二個目を手にしている。冷たい表情だ。

 そしてあっさりと告げた。


「見てのとおり、カブだ」

「カブぅぅぅっ!?」


 驚愕に目を見開くミノタウロスの付き添い二人が、自分の主と主様をすごい勢いで交互に見つめる。

 その速度、過去最速。

 なかなか首の筋肉は鍛えてるみたい。

 最高硬度のカブには耐えられなかったみたいだけど。

 後ろの取り巻きはやばさを感じて逃げていったのに、両隣のミノタウロスはまだ残っている。


「……ザラン様……し、死んでる。シックスパックがへこんでる……」

「嘘だ……絶対に嘘だ! 魔法だろ! そうだろ!?」


 ざーんねん。

 うちが代わりに答えてあげよう。

 それはほんとにカブなの。

 ちょーっとばかり……いや、異常なくらい固いカブなの。

 畑を荒らしにくる魔物の歯を逆にダメにしてやろうって改良した、やりすぎカブ。

 結局うちのメンバーも誰も食べられなくなったという、悲しい子。主様のアイテムボックスに何個入ってるんだろ?


「ぶごぉぉっ!」「ぐばぁぁっっ」


 もう投げちゃったよ。

 せめて予告してあげたら、あの二人は帰ったと思うんだけどなぁ。


「……良かった。今回も畑荒らしを撃退できた。野菜たちを守り切ることができたか……ふぅ」


 主様が一仕事終えたとばかりに、額に浮いた汗をぬぐった。

 でも絶対にその汗はあいつらのせいじゃなくて気候のせいだ。だって、三回投げただけじゃん。

 転がってるカブには傷ひとつないし。

 腕力もおかしすぎ。

 これで戦闘経験が無いって言うんだから……なんだっけ、えーっと、斧とクワとハンマーと運搬とかで鍛えたとかなんとか。

 ないよねー。

 一応、魔王を名乗るくらいだからきっとこの人達も強かっただろうに。気の毒。

 今度から野菜の味を覚えてからにしてね。

 そしたら主様も大歓迎だよ!

 

「フラム……お前も野菜たちを心配してくれていたのか? いい笑顔だな」

「も、もちろん。妖精の下っ端の私には野菜たちの救いを求める声が聞こえたように感じて心配で……」

「なんと!? そんな声が聞こえるのかっ!? 今度俺にやり方を伝授してくれ!」


 あっ、なんか踏んじゃった。

 余計なひと言言っちゃったじゃん……ひぃぃぃっっっ!

 またこの人やりすぎるって!

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