変わらぬ想い、変わる愛~君の小指に捧げる愛~≪旧題:覚えているのは自分だけ≫

@callas

第1話

 あぁまたアイツだ……


 姿が違うのに何故かアイツだとわかる。

 前回はひどく鬱陶しかった。

 ベタベタと纏わりつくだけでなく、影では愛しい彼女にひどい嫌がらせをして、ホントに屑みたいな女だった。

 罪を暴露し、処刑したときはホントに胸がすく思いだった。

 私は、今世にて何故か前世の記憶を持って生まれたが、アイツも記憶があるのだろうか………。

 もしそうなら面倒だ。


 そういえば、愛しい彼女はいるだろうか。

 来世でも一緒だと約束したのだ。

 きっとまた巡り会うのだろう。

 たとえ彼女の記憶がなくても、私たちはまた惹かれ合う。


 それが運命なのだから────





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「あのっ!櫂人かいと様」

 

 呼び声に振り向けば、同じクラスの東堂 愛嘩あいかが立っていた。

 声をかけてきたくせに、俯いて目線を合わせようとしない。

 内心イラッとしながらも、顔には出さないよう心掛けた。

 

 何を隠そうコイツは前世で俺に纏りついていた女だ。しかし、この女はどうやら前世の記憶が無いようだった。あれば即排除できたものを…………運のいいヤツだ。


 「何か用ですか?」

 にっこり微笑めば顔を真っ赤にし、「あのぅ」やら「えっと」を繰り返し要領を得ない。

 イライラしながら待てば、漸く決心したようで、勢いよく顔を上げた。


 「今度のテストの範囲で、わからないところがあるので教えて頂けませんか⁉」

 言い終わった途端に下を向き、両手を握りしめる姿は、クラスの男たちが見れば、可愛いとか何とか言って騒ぎそうだが、私は何とも思わない。記憶がないとはいえ前世のコイツを覚えているからだろう。


 「…東堂さんはいつもテストで上位を維持してるではありませんか。私に教わるよりも先生に教わった方がいいのではないですか?」

 「えっと……でも……櫂人様はいつも1番ですし……」

 断ったのにすぐに諦めない女に、思わずため息がでる。

 「私は人に教えるのは苦手なのですよ。あと勉強は一人でする方が好きですしね」

 「あっ…………」

 女が口を開く前にさらに畳み掛ける。

 「それと……親しくもないのに下の名前で呼ぶのはどうかと思いますよ?」

 「……っ‼申し訳ありません…」

 女が頭を下げるのを横目に見ながら、その場を後にする。


 前世はそれなりに整った容姿だったが、今世もどうやら女を惹き付ける外見に生まれたようで、色んな女から声をかけられる。まぁ親が会社を持っていることも要因の一つだろう。

 もちろん断ってはいるが、後から後から来るので、正直面倒だと思う。すべて切り捨てるのは簡単だが、将来のために、出来るだけ敵を作らないように気を付けていた。


 まったくアイツは今世でも私に気があるのか………なんて面倒な……




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 あれから何度もアイツはきっかけを探しては、私に近寄よろうとしてくる。

 事前に察知できるときは、それとなく避けているが、一年も続くとストレスも溜まってくるというものだ。


 来年は、せめて別のクラスだといいが…………


 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 学年が上がり新入生が入って来たとき、彼女を見つけた。

 今世は高遠 雛菜ひいなと言うらしい。

 前世はふわふわな金髪で、瞳も大きく小動物のような愛らしい外見だったが、現在は黒髪ストレートのスラリとしたスタイルで、可愛いと言うよりは美しいと言う言葉が似合う。

 

 (あぁ……やはり私は今世でも彼女に落ちたようだ)


 彼女は見た目もさることながら、編入試験も好成績だったようだ。学校ここの編入試験は難しくて、なかなか受からないので有名なのだが、さすが彼女だ。

 だから、当初からかなり注目を浴びていた。

 ライバルの多さに焦りながら、彼女が私のことを覚えてくれていることを期待して、さりげなく彼女の目の前に現れた。


 絡む視線、息をのむ姿、潤み始めた瞳に、彼女にも記憶があることを悟った。

 その瞬間、全身を駆け巡った歓喜は言葉には言い表せないだろう。


 「ルー?」

 可愛らしい口から紡がれた嘗て彼女が呼んでいた私の愛称に、思わず口元が綻ぶのがわかる。

 「あっ……ごめんなさい……意味がわからないわよね」

 慌てて俯きながら訂正する彼女が、何とも可愛らしい。

 「……大丈夫。ちゃんとわかるよ、

 ハッと顔を上げた彼女と見つめ合う。

 「約束しただろう?来世も一緒だと……」

 ニッコリ微笑めば、彼女の瞳から一滴の涙がこぼれた。

 それをそっと拭い、彼女を抱きしめた。

 「あっ……待って‼周りに人が………」

 顔を真っ赤にして慌てる彼女に、愛しさが込み上げてきて、このまま抱きしめていたいような、困らせるのはいけないような、どちらかで迷ったが、渋々体を離した。

 「私たち今世では、自己紹介もまだよ」

 「そうだったね。嬉しさのあまり体が先に動いてしまったよ」

 お互いに顔を見合せ、何だかおかしくて笑ってしまった。


 (彼女が覚えていてくれて良かった……すぐに赤くなるところも変わらないなぁ。アイツが同じ表情かおをしたところで何とも思わないけど……アリアはホントに可愛い…)

 

 それから改まって自己紹介をした。そして、今までの事などをお互いに話し合った。


 私たちが付き合い始めたことは、すぐに全学年に知れ渡ることとなる。

 今まで誰とも付き合うことがなかった私が、彼女を作ったことにより、周りが騒がしかったが、相手がアリア…今は雛菜か……と知ってすんなり受け入れられたようだ。

 雛菜と私、二人並ぶと美男美女でお似合いだと友達はからかいながらも喜んでくれた。

 


 もちろん、アイツの耳にも入っただろう────


 彼女に害を与えないようしっかり守らなくては…………



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 暫く警戒していたが、アイツは悲しそうな表情をするだけで、雛菜に危害を加えてくることもなかった。嬉しい誤算として、付き合いが広まると、アイツも近寄らなくなった。時々視線は感じるが………


 私は徐々にアイツの存在を気にしなくなった。アイツのことを考えるより、雛菜といる方が楽しいし、何もしてこないのなら、気にする必要もないと、どうでもよくなったのだ。


 学校を卒業し、親の小会社に就職し、実績を積み、本社勤務の内示が出た頃、私は雛菜にプロポーズをした。

 涙を流して承諾の返事をする彼女を、嬉しさのあまり抱きしめてクルクル回したのはいい思い出だ。

 後から聞いた話だが、あの時は目が回ってちょっと吐きそうだったと言われ、謝りながらもう二度と回さないと誓った。


 歳月が流れるなか、子供にも恵まれ、穏やかで幸せの日々を過ごした。

 お互いに年を取り、そろそろ寿命がつきると感じた頃、風の噂でアイツが亡くなったことを知った。

 生涯独身だったようだ────




 アイツは死ぬまで私のことが好きだったのだろうか………

 今となってはわからない。

 どちらにせよ、私には愛した雛菜つまがいて、可愛い子供や孫たちもいる。

 何と幸せな人生か………


 「雛菜……来世も一緒に………」

 愛しい妻に手を握られ私は目を閉じた。




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