第九話 絵画と二頭衝三

ドリームドロー そのⅠ

「じゃあYO、俺が行けばいいんだNA?」

 衝三が鍵下に聞いた。鍵下は首を振って答えた。

「最初から俺にまかせてくれれBA、楽勝だったのNI! ったKU、鍵下ったらやたらと作戦にこだわるんだかRA!」

「いいから、行ってこい。もうお前と俺しか残っていない。お前も久々に、暴れまわりたいだろう?」

「そう言われたRA、はいって答えるしかねえZE!」

 衝三はスケッチブックと鉛筆を持って、外に出た。


 流石は八丈島だな。そろそろ六月の終わりだってのに、日差しが容赦ない。これで七月に入って、もっと暑くなる? 冗談じゃ済まされないぞ…。

 今日は休日だ。俺は日々の連戦で疲れてるんだ。今日ぐらいはゆっくりとしようと思って、近くに海岸もあるんだし真沙子でも誘おうとしたが、それは叶いそうにない。

「お前は確か、二頭衝三…だったな? どうしたこんなところに来て?」

 俺はとぼけて聞いてみた。その答えは既に、わかっているというのに…。

「わかってんだRO? 俺と勝負DA! 俺が粒磨に負けるはずがねE!」

 コイツが持っている物は、何だ? 物体としてはわかっているが、それと衝三の超能力と、どのように関係があるんだ? 

「先に言っておくZE。俺の超能力はNA、俺が描いた絵WO、実体化させることDA!」

 そう言うと衝三はスケッチブックを開いた。中から白黒の鳥が二羽、俺に向かって飛んで来た。

「お前は俺の超能力をわかってんだよな? じゃあそんなことしても無意味だぜ!」

 俺は、速攻で水の刃を作ると、向かってくる鳥に振り下ろす。一瞬で鳥の絵は二つに割れる。

「そいつはYO、俺のセリフだZE!」

 衝三には何か、かなり自信があるようだが…?

 だが俺も、負けてやる道理はない。勝負を挑んでくるのなら、全力で迎え撃つまでだ!

 俺が構えると、衝三も構えた。

「おI、何緊張してんだYO?」

「そう言うお前は随分と余裕そうだな…。絵が上手いと鼻も高くなるのか」

「違えYO! お前のことWO、心配して言ってやってんだZE!」

 心配? そりゃあ有難い。有難いから負けてくれるんだな。

 俺は今の心境を、衝三に言ってやろうと思っていた。だがその衝動は、耳元で鳴ったある音によってかき消された。

 俺の耳元で、ブーンと何かが飛ぶ音が聞こえる。

 俺は音の方を向いた。

「そんなバカな! この八丈島には、それはいないはずだ!」

 飛んでいるのは、スズメバチだ。だがこの八丈島には、毒針で刺すタイプのハチは生息していない。それは本土にいた時に親から聞いたし、植物園の展示にも書かれていたことだ。

「俺がYO、ネットで写真をみながRA、スケッチしたんだZE。どうDA、上手く描けてるだRO?」

 確かに本物そっくりだが、毒は? 今この状況では、それが一番気がかりだ。

 俺が一瞬だけ心配そうな表情をしたのを、衝三は見逃さなかったようで、

「安心しなYO、毒は持ってねえからYO。流石にそこまでは再現できねE。描かれた通りにしかならねえからYO」

 そうなのか…。俺が安堵のため息を吐こうとした瞬間、耳に激痛が走った。

「痛!」

「言い忘れてたZE。毒はないGA、普通に刺すZE」

 コイツ…。

「それを先に言えよ、意味ねえだろ!」

 衝三は、俺が耳を押さえているのをハハハっと笑う。モノクロのスズメバチはまだ、俺の周りを飛んでいる。

 俺は、水でスズメバチを撃ち落としてやった。

「どうした衝三? 笑い声が聞こえなくなったぞ?」

「面白れE。そうこなくっちゃNA!」

 おそらく今のハチは、さっきの鳥と同時に現れたのだろう。鳥は囮で、本命はスズメバチ。見事にしてやられたが、ならばスケッチブックから目は離さないだけのこと。衝三の行動は、カモフラージュに重点を置こうとするだろうから、意味がないものが多いだろうからな。

 俺は片方の水鉄砲を、衝三に見えないように腰の裏に回す。そこで水の球を作り、攻撃に備える。

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