ビッグアトモスフィア そのⅣ

 だが俺が実行に移そうとしたとき、

「何やってるんだ、粒磨! 空飛!」

 小豆沢の声…? 俺も空飛も、声の方を向いた。

 そこにいたのは、小豆沢だけではない。真沙子や四葉もいる。

「何でここに?」

 俺が問いかけると、

「昼休みになっても教室に戻って来ない、からよ」

「屋上かなって思ったねー風が強いし。誰もいなかったから校庭には」

 予想外の展開だ。まさか、探されていたとは…。言われてみれば俺が勝負を仕掛けたのは、昼休みだったな。

 丁度いい。みんなで空飛を倒そう。

俺は思った。

 真沙子の炎は、空飛の風に水同様、阻まれるだろう。だが温度が高くなると、空気の流れも変わる。それならいけるんじゃないか?

 小豆沢の電気は、風に負けはしないだろう。稲妻で解決できるはずだ。

 四葉の植物は、風に抗えるだろう。どんな暴風が吹き荒れても、根強く耐えられるのが植物だ。

 大気は空飛の味方でも、天は俺の味方をした! そしてそういう風が吹き荒れる天気にしたのは紛れもない空飛自身。教室の外に連れ出しても、大丈夫じゃないか。

 俺は空飛の方へ顔を戻した。

「って、おい!」

 何と空飛は、展開していた台風を解除すると、上昇気流を生み出して、空を飛んだ。

「逃げる気か、空飛!」

 俺が叫ぶと、

「粒磨! 私と勝負したいのなら、一人でかかって来い! 西山で待っているぞ」

 そのまま風と共に飛んでいった。

 何だアイツ、不利と思うや否や、逃げて行ったぞ? 

 俺はとりあえず真沙子たちに促されて教室に戻った。授業は受けなければいけないので、しょうがない。

 だが空飛は戻って来なかった。


 学校が終わった。俺は一人で登山道にいる。

 最低限小豆沢でも連れて行きたかったが、また逃げられても面倒だ。それに一対一での戦いに空飛が拘るのには、理由があるはずだ。意味もなくタイマンバトルなんて仕掛けてこないだろう。数に物を言わせるのなら、俺が上陸した時点で、十人でかかってくればいいだけの話。それをしないのには、ワケが必ずある。

「にしても、登りづらいったらねーな…。泉ヶ岳の方がマシだ…」

 開拓されているのか違うのか、わからない道を登る。邪魔な草木は水の刃で切り裂いて進んだ。それでも登山スピードは遅い。

「空飛のヤロウ…。待ってくれてっかな…?」

 空を見上げると、怪しい雲。降り出すか? 空飛と戦う時に降れば、俺が有利…いや違うな、アイツにかかれば雲なんて、風で吹き飛ばして終わりだ。そもそも今日の天気は終日晴れなのだ。空飛の超能力のせいで、天気が狂っているのだ。

「おや?」

 俺があれこれ考えているうちに、雲が動いて行く。雨が降ると俺が有利になるのは、空飛にもわかっていた。そりゃそうだよな、真沙子にはそれで勝ったんだから。警戒されて当たり前か。

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