ビッグアトモスフィア そのⅤ

 やっと登り終わる。俺は息を切らしていた。

「はあ、はあ」

 体力がない方、とは思っていないのだが…。夏休みは毎年プールで泳いでるし、冬には毎日ランニングも行っている。なのに何でこんなに息が上がる?

「山の上というのはな、空気が薄い。空気も引力で地球に引き付けられているからだ。高いところでは地球の中心から離れるために、引力が弱くなる。だから空気は薄くなる」

 俺に理科の授業でもするつもりなのか、空飛が得意げに語って来る。

「だったら、お前の超能力も、不利じゃないのか? 風は空気の動き、だろう?」

「一理ある。だがその荒い息では、私のディスアドバンテージも消えてしまうだろうな」

 呼吸が整うまで待ってくれれば俺も満足に戦えるのだが、空飛にはそんな様子はない。これも作戦の内か!

「大気を動かせるということは、だ…。ある場所から、テンポラリーに空気の量を減らしておくこともポッシブルだ」

 俺はそれを聞いて、しまったと思った。

 俺の息が荒いのは、体が悲鳴を上げているからではない。

 ただでさえ薄い空気を、さらに減らされているのだ。ということは、体が要求する酸素量に対し、供給できている量が全然足りてない。空気を吸ってもその二十パーセントしか酸素は含まれてないのだから。

「こんなにハンデがあるなら、なおさら勝てないと端だぜ? わかってるのかよ?」

「私は勝利する。何をオブヴィアスなことを?」

 言ってろ…!

 俺はまず、状況を整理した。


 確かに空飛の言う通り、十分な酸素が供給できていない時点で俺の体は思ったように動かせない。空飛はおそらく、持久戦を考えているのではないだろうか? 俺の体力が切れれば、それだけで勝利に直行する…。

 だが空飛も、操れる空気が減っている。もしかしたら、水を吹き飛ばすのにも一苦労かもしれない。空気の量は増やすことも戻すこともできない。それをすれば、今のアドバンテージを活かせなくなる。

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