スクラッチアース そのⅣ

 ここから見ると、周囲が良く見える。海面が下がっているな。残っている時間は少ないようだ。

「これで終わりだ。この俺が相手をしてくれたことを嬉しく思うのだな」

 武炉は、陥没した穴の中を確認することなく、周りの地面を崩壊させた。もっと直径の大きい穴が、ぽっかりと開いた。そしてその下は、暗くてよく見えない。

「粒磨。貴様を助けてやってもいいぞ。まだ息があればの話だがな」

 もう勝利した気分だな。その鼻をへし折ってやるぜ!

 俺はウォーターガンの標準を武炉に合わせた。そしてトリガーを引く。

 大丈夫だ、絶対に当たる。なぜなら武炉は、俺がテレポートで隆起した山に移動したのを知らないからだ!

 だが俺の放った水の球は、あと少しというところで、地面から噴き出した溶岩に蒸発させられた。

「あれだけ水を用意しておいて、今そこで使わないのはおかしい。やはりこっちに逃げていたか、粒磨。普通にテレポートを使用できることを忘れていた」

 見抜かれてしまった。しかも、原因は四葉の時と同じ。防御すべき時に、水が使われていないから。

 俺と武炉は、睨み合った。どちらが先に攻撃するか…。こうなると俺が不利だ。トリガーを引くところを、必ず見られてしまう。だが武炉は、そんな予備動作を見せずに地面を操って攻撃に入れる。

 暑い。六月と言えど、集中が乱れてしまうほどの暑さだ。まるで近くで、キャンプファイヤーでもしているかのようだ…?

 何だ? 熱い。太陽光ではなく、他の何かが熱を発している?

「っておおおい!」

 武炉にしてやられた! アイツ、この隆起した山の頂上から静かにゆっくりと、溶岩を湧き出させていやがった。それが俺の背後に迫って来る。どうりで暑いのではなく熱いわけだ。

「昭和新山は火山だ。だったらいつ噴火してもおかしくないわけだ。まあ、この俺が本気になれば、日本全国の火山という火山を噴火させるのは、難しくもない。リクエストがあれば、やってやろうか? まずは貴様の後ろから!」

 頼んでもいないのに、噴火させやがってコイツ…! 俺は急いで、隆起した山から駆け降りる。

「無意味だ」

 今度は武炉は、地割れで攻撃してきた。俺の足元の地面に、メロンのような亀裂が入ると徐々にそれが大きくなっていく。

「武炉ぉ、おおおお!」

 俺は雄叫びを上げながら、ジャンプした。亀裂をかわすと、また飛ぶ。飛びながら武炉をウォーターガンで狙う。もちろん武炉も、溶岩で防御してくる。

 俺の攻撃が届いていないと思うか? ガードされるのは想定内だ。溶岩で自分の前面に壁を築いたのなら、俺の片方のウォーターガンが明後日の方向を向いていてもそれには気がつけないよな?

 俺は四発、撃った。途中で軌道が変わる水の球を。四方向からだ。

「がはっ!」

 当たったようだ。流石にこれは予想できなかったのだろう。

 それもそのはずだ。このタイプの水は真沙子にしか披露してないし、決定打にすらなってもいない。武炉たちにとっては、俺ができるというだけで、警戒する意味すらないという認識程度だろう。だがあれは、相手が悪かっただけだ、本来ならこの魔法のような弾丸で、ガンガン攻めていきたいぐらいなんだぜ!

「よくもやったな…粒磨!」

 今の攻撃で武炉の頭には、血が上ったようだ。

「少しは水でもかけてよ、その真っ赤っかな頭を溶岩ごと、冷やしたらどうだ?」

 こうなれば少しでも苛立たせて、隙を作ってもらおう。その間に、山から下りさせてもらう。

「うるさいぞ、その口を永遠に閉じてやる!」

 武炉は、間欠泉を俺に向かって噴水させた。

「避けた…だと?」

 正確には違う。間欠泉と言っても、噴き出しているのは熱水。言い換えれば温度の高い水。ならば俺が操れないことはないんじゃないか? 流石に蒸気までもは無理なので、至近距離では使えない手ではあるが、斜めの地面から噴き出したのであれば、少し隙がある。そして俺の目論見通りだった。

「良し! 後は武炉を片付けて…」

 俺の目には、怒りに完全に囚われた武炉が映っているはずだった。だがそうではなかった…。

「水をかけて冷静に、か……。そうだな。俺も落ち着かないといけない」

 まさかコイツは、俺が間欠泉をかわしたのを見て、逆上しないで沈静したのか?

 超能力だけじゃない。武炉は感情のコントロールすらも異次元レベルだ…。俺はコイツの隙を突くことができるのか? そもそも隙があるのか?

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