EXECUTE

杜都醍醐

第一話 火炎と三久須真沙子

マジックフレイム そのⅠ

 東京都に引っ越したって聞いたら、金持ちって言われるだろうか…。実際に近所に住んでいた友人たちからはそう言われた。確かに走ってる車のナンバープレートには『品川』の二文字が書かれているし。

「全然違うよ、そりゃあね」

 俺は海を渡って、八丈島にやって来た。親が転勤だから仕方ないんだけど。

 二百八十七キロメートルを十二時間かけてお世辞にも豪華とは言えない客船で移動したわけだが、ここに住んでもセレブっぽくはないな。むしろ田舎っぽい。そしてハイビスカスが咲いてるので、ますます日本っぽくない。今日の天気は、雨が降りそうな曇りだったからまだいいが、快晴の時は日差しが残酷だ。


 自己紹介は、今はできない。実は俺、狙われてるんだよ………。

 木の陰に隠れてるんだけど、目の前を横切った女は三久須真沙子みくすまさこ。転校先の学校の同級生だ。

「どこに行ったの、かしら? 隠れても無駄、よ!」

 大声で叫んでるけどな、実際には効果てきめんだ。だって発見されてないんだもの。

 俺は演奏中のオーケストラの邪魔をしないように静かに、懐に手を伸ばした。


 いける!


 だが、真沙子の取った行動はというと……。手を広げた。その手のひらに、炎が出現した。

 普通なら、「今、何をした?」って言うだろうな。でも俺は違う。焦ってないのもやせ我慢じゃない。

「パイロキネシスだな。あそこまで炎を大きく保つのは、さすがの俺でも無理そうだ…。相当鍛錬してるぞ」

 真沙子は超能力者だ。それも火を起すパイロキネシスに特化した、俺からするとえらく相性が悪い超能力者。

 真沙子がもう片方の手をパチンと鳴らした。すると炎が噴水のように広がる。彼女の周りだけ、赤い噴水に照らされて良く見えるようになった。

「この辺りじゃない、ようね。じゃああっち、かしら!」

 火炎放射器のごとく炎が真沙子の指先から出て、彼女の目の前の樹木を燃やした。それも一瞬で、周りの街路樹には燃え移さずに。そのまま前に進んで、樹木…ではなく、出来たばかりの木炭を踏みつけている。

「この近くにいるのはわかっている、のよ? 出てきなさい、炭比奈すみひな粒磨りゅうま!」

 俺の名前が真沙子の口から出てきた。

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