再甦

久しぶりにリツにLINEを送る。

「花さんに会ったよ」

あっちは今、夜中だ。まさかとは思うけど…



すぐに電話が来た。

「どういうこと?」

「うちの会社の代表の奥さんだった。自宅に招待されたんだ。そしたら花さんがいた」

「……」

「元気だったよ。リツはどうしてるか聞かれたから、海外で元気にしてるって言った」

「兄貴、転職したんだよね。ベンチャー?」

「うん」

「名前は?」

「force」

「分かった。また連絡するわ」

「ちょ、お前何するつもり?」

「ちょっと調べて考える」

「買収はやめろよ!」

「たぶん無い。コンサルかな」

「やめてくれよ…オレ、やっと居場所が出来たのに…」

「悪いようにはしないから」

「そのセリフ、悪いヤツしか言わないよ」

「大丈夫だよ。そっちだってまだ立ち上げて浅いんだろ?うまく軌道に乗せないと、花さんが困んだよ?」

「そうだけど…」

「近々そっち行くわ」

「不安しかない…」

「心配すんなって」






また花さんに会える…?

そんな日が来るとは思わなかった。

喪失感をやっと飼い慣らし、傷も癒え出したところだった。

あれ以来、恋人がいなかった訳ではない。

だけど、それは花さんが自分にとって特別であることを確認する時間となった。

花さんはヒトノモノだ。

しかも兄貴の会社の代表の奥さん。

だからまた会えるかもしれないことは嬉しいが、絶対にどうにも出来ない関係になった。

けれど──

理性では判っていても感情はどうにもならない。

それは、花さんが教えてくれた事だ。


PCに保存してあった海に行った時の動画を初めて見る。

ずっと見れなかった動画。

そこに、あの日の花さんがいる──

俺、本当にどうしちゃったんだろうか?

切なくて動画が見れないなんて、いい年して恥ずかしい。自分でもおかしいと思うけど、どうにもならない。忘れたくて日本を飛び出した。向こうで仕事がしてみたいなんて言い訳だった。LAに移ったばかりのころは夕陽を見る度に涙が溢れた。そんな自分は初めてで、気を紛らわすためにがむしゃらに仕事をこなした。人を想う気持ちは、自分でもどうにも出来ないんだ。理屈や常識なんて何の役にも立たない。



また花さんに会える──。




忘れなくていい。そう思うだけで、心が翼を広げる。

今すぐにでも日本へ飛んで帰りたい。

想いは一瞬で甦る。

この動画のように鮮やかに

あの日のままだ。





翌月には日本へ戻るよう調整できた。

羽田に降り立つのは久しぶりだ。

この日本に花さんがいると思うだけで、胸がじんわり温かくなる。


人を介してフジキに接触し、あくまでビジネスとして話を進めてきた。企業として悪くないし、なにより最高のコンサルをするつもりだ。業界トップを狙う。準備はしっかりしてきた。花さんを忘れる為にがむしゃらにやってきたことが、ここで役に立つなんて。

必ず口説き落とす。

下心って、最強のモチベーションだな。


「ただいま」

「おぅ、おかえり」


一回り小さくなった親父が迎えてくれた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る