ひざまくらの後は(改稿1)

ぴおに

覚えていますか?


夏の初めのある日

僕は残業を断り、ある場所へ向かった。



ワンフロアの開けた明るいオフィス。

元上司の佐藤さんがやってくる。

「おぅ、久しぶり」

「今日は急にすみません」

「いや、いつでもかまわんよ」

「なんか、うちの会社とは雰囲気全然違いますね」

「あぁ、イマドキだろ?」

ミーティングルームで会議が終わり、フロアに人が出てくる。

佐藤さんと僕がスタンドテーブルを囲み話しているところへ、スラッとした優しい雰囲気のイケメンが爽やかに現れた。

「おまたせ」

「おっ、オレの友人でここの代表だ」

「はじめまして」

差し出された右手の指が細く長く、リュウジさんを思い出してドキッとした。

「は、はじめまして、山田です」

「代表の藤木です」




それからしばらくして、僕は藤木さんの会社へ転職した。僕はのびのびとした社風の中で実力をさらに伸ばしていった。会社にも馴染み、仕事の楽しさも見いだせるようになった。

そんなある日。

「山田くん、今日はなんか予定ある?」

「いえ、特にないです」

「じゃあ、佐藤と一緒に家へ来ないか?今日は家呑みしようと思って」

「ありがとうございます」

藤木さんは僕の前で家に電話をした。

「あ、俺だけど。今夜、佐藤と期待のルーキーを連れて帰るから、夕飯宜しく」

期待のルーキーって言い方がレトロでこそばゆいけど、そんな風に言われたことも、誘われたことも無かった僕は、感じたことのない居心地のよさに目が眩むようだった。

藤木さんの為に、会社の為に頑張ろう。

そんな風に思えるようになるなんて、自分でも驚く。

藤木さんの家に向かう間、二人の頼もしい上司の背中を見ながら、そんなことを考えていた。






「こんばんは」

「失礼します」

「こんばんはー!」

子供達がパジャマ姿でバタバタやって来る。

「おー、チビッ子ども!元気だったか?」

ゴリラみたいな佐藤さんは末っ子のテンちゃんを抱きかかえ、長男のジンくんの頭をくしゃっと撫でた。後から長女のリョウカちゃんと次女のナナちゃんが佐藤さんの腰にしがみつく。子供達を引き連れて「うおーっ」と家の中に走り込んで行く背中は、立派なシルバーバックだった。

「どうぞ上がって」

「おじゃまします」

「こんばんは、いつも主人がお世話になっております」

奥から、聞き覚えのある声がする…






──花さんだった。

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