146:「この川は海につながっているんですよね」と言っていた後輩くん。
それでもおぼろげに覚えているのは、私は彼の最寄り駅に興味を示していたということです。いえ、ほんとは彼のいろんなこと、なにもかもに興味があったのでしょう。でもそのことを自覚できるほど、当時の私はまだおとなではありませんでした。
なので、彼への本質的な興味は、「後輩くんの最寄りの○○って駅、すごく気になってる! 案内してほしい!」とかいう、不器用にも一見すれば純粋そうな「駅や地域への興味」というかたちに変換されてしまっていた、ということなのだと思うのです。
いまにして思えばそんな誘いをよく受けてくれました。
受験生でしょうに。そして、たぶん、当時は私も自分のことで一生懸命であまり気がつかなかったのですけど、傷心といえる状況でもあったでしょうに――。
ぽつ、ぽつ、と話をしながら、駅からすこしずつ、すこしずつ遠ざかって遠くへ。
昼間の陽射しは眩しく、暑いほどでした。
小さな図書館の前を通り過ぎて、図書館って行く? って話をして。行きませんねえそんなに、という答えだったので、えっ、じゃあその図書館も使ったことないの? ないですねえ、ええっ、そうなの、私だったらこんな近くにあれば超利用するよ! 近所のところもよく使うし! とか言い合いながら、その図書館を横目に通り過ぎて。
ただなんとなく、川にたどりついて。
意味もなく、ただ意味もなく川沿いを歩いて。
意味のない会話ばっかりして。
ただ、楽しかったことと。
ほんとうに、陽射しがまぶしかったことと。
「この川って、海につながってるんですよね。衝動的に、自転車で行こうと思うときがたまにあって、飛ばすんですけど、いちどもたどりつけたことがないんですよ」
湾曲する川の流れをまぶしそうに目を細めて見つめながら、そんなことを言った後輩くんの横顔だけが、ほんとうに、ほんとうにいまでもおそろしいほど一枚の写真のように強烈に鮮明で、忘れられなくて――。
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