125:つきあっとけばよかったかなあ、って。このときに、ただ漠然と思いはじめた。
なんだか告白でもしとけばよかったのかなと思いました。物理的に遠くなるだけで、社会的に立場が異なるだけで、こんなにもう手の届かない存在になるような気がするなら、いっそ強引に告白でもして、ぐいぐいといって、つきあわせとけばよかったかな、と。いや、その、もちろん、……断られることが怖かったというのもあったでしょうし、私はけっきょくそうはしなかったでしょうけど。
断られたらもう致命傷だと思ってましたね。だから、必然的に諦めがつく状況は……ありがたいといえば、ありがたかったのですけど。
そんなことをしては、もちろんだめだ……と、すぐに思い直していましたけど。それに、もう。そんなのは、「もしも話」です。「もし、恋愛がこういっていたら、どうなるんだろう」っていう、
想像するだけ、虚しいだけだ。やめよう、と思いました。
後悔は、そんなかたちで片づけてはいけない。
もし、一億回の私がいたとして。
そのうちの、たった一回くらいは、後輩くんといるいまが、未来があったのかもしれない。
でも、そんなのは、もうすべてがいまさらなのでした――。
……しかしのちに、私は彼から言われます。
「いや、まあ、ねえ。それでも、あのときにつきあわなくて、正解だったと思うよ」
「なんで?」
「あのころには俺も子どもだったし……」
ああ、と息をつくように、彼のあれからとそれから、そしていまに思いを馳せました。
彼がそのように振り返る、子どもだったとき――私もまだ、十九歳の子どもとして、ひとり身勝手に身悶えていたわけなのですから。
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