60:おなじ空間、斜めの場所にいた彼。
午前だったのか、午後だったのか。それすら曖昧です。
ただ、ずいぶんさんさんと晴れていて。
光がずいぶん優しくそして金色に染まってきてましたから、たぶん昼下がりだったのだと思ってます。
静かな校舎に、ほかにはだれもいない教室。
窓ぎわの二列、三席だけを借りての部活でした。
私と、私と同期の女の子が、窓ぎわから数えて二番めの列。私が黒板がわ彼女がロッカーがわとなるように縦に並び、ぺちゃくちゃおしゃべりをしてました。
後輩くんはといえばもっとも窓ぎわに近い席の、私の斜めにあたるような位置の席につきまして、ノートパソコンを開いてカタカタとなにかを打ち込んでいました。たぶん、なにか書いてたんだと思います。
いまにして思えば部活をするとき、彼はなんとなくいつも斜めのところにいた気がします。
横や縦の位置にならなかった気がします。
いえ。あるいは、ほんとうはちゃんと横並びや縦並びだったのかもしれません。私の感情的実感が――それを、斜めの関係だとあるいは錯覚させているだけで。
部屋に響くのは、私とその同期の女の子の女子高生らしい明るいしゃべり声。そして三年生が卒業して、もう三年生に上がる直前という、この高校に慣れきってもうもっとものびのびと振る舞えるひとたちならではの、自由な話題や喋り口。
他愛ない噂話や、ちょっとした恋バナや。
後輩くんはそんな先輩女子ふたりを傍らに、とくに会話に交じってくることもなく、でもつまらなそうとか帰ってしまうとかでもなく、いつも通り、ノートパソコンを前にただ自分のことをやっていました。
入部してきたばかりのときは、――急に帰っちゃったりしてたし、いつ帰ってもおかしくなさそうな感じだったのに。
このときには、もう……そういうことはないな、ってわかってました。
すくなくとも私は、すぐそこにいる後輩くんがいることをもちろん意識してました。
わー、だよねー、きゃー、とか、友達と会話に夢中になって後輩くんのことは意識してないや――みたいな体を、全身で装いながら。
女子高生よりは、男子小学生かっていうくらいな心理ですよね。……友達とはしゃぐところを、アピールしてる。見せつけたい。みたいな。そんなんをしたところで――べつになんら意味はないと、いまなら思うのですけど。
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