51:ちゃんとしゃべれるようになってきたんですよ。

 さて、そんなこんなで。

 われわれはふたたび平常通りとなった部活のなかで会い続ける生活に戻るのですが。



 文化祭の前か後か厳密には判然としないのですが、あきらかにこの時期です。

 彼の私への接しかたが、大きく変化しました。


 まあ、ひとことで言いますとですね、会話が成立するようになったんですよ。

 ほかのひとたちとだけではなく、私ともです。

 たぶん、文芸部のなかでは、彼がそうやって最低限まともにしゃべれるようになったのは、順番的には私が最後だったように思えます。


 彼はすこし笑うようになり、目が合うようになり、あいさつや一問一答以上のやりとりが成り立つようにさえなりました。アニメや本の話。クラスや学園の話。中学時代や家族の話。他愛もないことをあれこれと。

 ある程度、ですけども。けど、それだけでぜんぜん大きい――。


 それは、まあ演劇のおかげかな、とも思ったんですけどね。……そういうのはちくっとするから、当時はあまり考えないようにいたしておりました。



 ある日のまったりとした部活中。

「なんだよ! しゃべれるじゃんよ後輩くん!!」と私がわきわきと迫ると、彼は言いました。


「なんか、ほかの先輩たちに部長の扱いかたを教わったのもあって。なんとなく、わかってきました」

「なにそれ! 完全に私の同期からの悪知恵を授かっている!!」

「案外適当でいいんだな、って」

「なんだよそれ! ねえ悪知恵を後輩くんに授けたひとー、挙手!!」



 ……みたいな感じで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る