外伝 望まぬ新人冒険者【中編】
翌朝、重たい足取りでギルドに行くと、ジェットンはまだ来ていなかった。朝一でギルドに用事があった冒険者たちが居なくなった頃、へらへら笑いながらジェットンがやってきた。
「すいません……昨日のお酒が抜けていなかったもんで」
呑気な声で、笑えもしない言い訳にイラッとする。
「じゃあ出かけるか」
出来るだけ怒りを隠し、ギルドを後にした。
「その大太刀、結構格好いいよな! 触らせてくれ」
そう言って、俺の返事も聞かず、柄に触ろうと手を伸ばしてくる。
「冒険者の武器に触れるのは、御法度だぞ」
やんわりと非常識を戒めたつもりだったが、彼は不機嫌そうな顔になりムスッと押し黙る。
魔王の森に入り、休むこともなく一時間ほど歩き続けた。流石に毎日重い荷を担いで暮らしていたので、ジェットンは問題なく俺の後ろに付いてくることが出来ていた。鼻歌交じりで歩いていれば、叱ってやろうと思っていたが、そこまで非常識な男ではなかったらしい。
「この辺りが薬草の群生地だ、少し休憩してから狩り始めるぞ」
俺は元気よく声を張り上げる。
「やっと着いたのか! まだ歩かされるかと、ドキドキしちまったぜ」
ホッとした様子で、辺りを見回す。
「普通の冒険者は、半日歩くなんて当たり前だぞ……。今回は俺の知っている穴場だから、一時間ぐらいで薬草の群生地に辿り着いたんだ」
ジェットンは水筒の水をガブ飲みながら、俺の話を聞き流していた……。そんな態度を気に留めず、俺は地面に生えている数種類の薬草を摘み取り、彼に見本として手渡した。
「この形の草を丁寧に集めてくれ。根を残して集めれば、また一月後に薬草は育つので、楽して根っこごと引っこ抜くのは、素人のすることだぞ」
「了解」
「それと、ここでは小鬼や中鬼が襲ってくることは少ないが、居ないわけではない。辺りに気を配って薬草を集めないと死ぬことになるから気をつけろ。ベテラン冒険者でも路中で素材集めをしていて、格下の魔物に襲われる『冒険者あるある』なんで、絶対忘れるなよ」
もう一度、念押すように語る。
「はいはい……十分に気をつけ薬草狩りを勤しみます」
俺の気持ちとは裏腹に、気だるそうな返事が返ってくる――
――俺たちは黙々と薬草狩りに勤しみ、太陽が中天を過ぎるまで働き続けた。
「そろそろ飯にするか」
そう言って、汗だくになっているジェットンに声を掛けた。
「うえっ! もうそんな時間ですか」
彼の仕事ぶりを見て、結構向いているのではないかと思った。
「かなりの量の薬草を、集めたじゃないか」
「おっちゃんの半分ぐらいしか、採れて無いぜ」
そう言って、薬草の詰まった袋を俺に見せた。
「初めてなら十分な成果だよ。まだ夕方までたっぷり時間はあるし、良い稼ぎになるぞ」
「えへへ……そう聞かされちまったら、まだまだ頑張れそうだ」
ジェットンは、無邪気な子供のように笑った。
お互いの袋が一杯になった頃、太陽が傾き始めていた。
「暗くなる前に、山から降りるとするか」
俺はジェットンの肩をポンと叩いて知らせる。
「ああ~~この作業は、結構腰に来るな!!」
背筋を伸ばしながら、帰り支度を始めた。
「その荷物を俺のソリに乗せてやる」
「あーざっす!!」
大きな声を出しながら、ジェットンがわざとらしく俺に頭を下げた。
「魔道具のソリは使い勝手が良いので、出来るだけ早く買うことをお勧めするわ」
「これだけ積んで、重さがそれほど感じないのは良いな。荷運びでもこんな道具があれば、結構楽だったんじゃないか……」
「ちげーねい」
俺は声を出して笑った。
俺たちは魔獣に出会うこともなく、山から無事に下りることが出来た。
「初めての冒険で魔獣に襲われれば、一生食いっぱぐれは無かったんだが……」
冒険者たちが語る、眉つばの話を彼に話す。
「それは残念だったよ」
ジェットンが、にっと笑って見せた。
ギルドで薬草を換金して貰うと、銀貨二枚がジェットンの手に渡る。
「マジかよ……冒険者楽勝だぜ」
銀貨を握りしめ、ジェットンは嬉しさで興奮している。
「ハハハ、薬草の買い取り金額が近頃、高騰していたのは大きいな。しかも案内人が優秀ときたら……」
俺はニヤリと笑う。
「そうだよな、せ・ん・ぱ・い」
「明日からは、競争相手だからその〝せんぱい„は止めてくれ」
俺はジェットンを一別し、ギルドから出て行った。
「このまま帰るのかよ……おっちゃん飲もうぜ」
そう言って、彼は駆け足で俺の後を付いて来る……結局、彼の押しに負け飲みに行く羽目になってしまう。翌朝、酒に酔って彼の差し出した魔の森の地図に、
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