第184話 二人の王女
「誰が不細工じゃと! 人間!!」
ターニャは、魔法陣から抜け出すと、俺の頭をコツンと小突いた。
「遅いじゃないか、待ちくたびれたわ」
電撃を屁ともせず、彼女に不満を伝える。そんな中、ラミアを初めて見たパトリシア王女の足は微かに震えていた。
「それで何のようじゃ」
「
「初めまして、私ローランツ王国の第二王女パトリシアと申します」
「ラミア国のターニャじゃ」
「こう見えて、ラミア国の王女様だからな」
俺は彼女の肩書きを、付け加えた。
「それで、人間国の王女が私に会いたいので、わざわざ妾を呼び出したのか」
「それは俺から説明させて貰う。実はこの姫様が魔王様に取り次いで欲しいと、俺に頼み込んできたのよ」
「ほーん。その願いを叶えることは私には無理じゃ。お母様に直接言ってくれ」
ターニャは、依頼内容に全く興味をみせず、母親に丸投げした。
「ありがとよ」
「別に……時間が空いていたから来ただけじゃよ。本当に迷惑なんだから」
その言葉を『別に貴方のためにいうことを、きいた訳じゃないんだからね』と脳内で変換して萌えた。
「人間! 良からぬことを想像しておるの」
そう言って、軽い電撃を落とされた。
――――何故ばれた。
俺たちはターニャに導かれるままに、魔法陣を潜る。緑の光に包まれた身体が溶け込むように、魔法陣の奥に吸い込まれていった。
「到着じゃ」
パトリシア王女はこの初めての経験に、目を丸くしながら硬直している。
転移した先は、城の外にある小さな中庭だった。防犯上どうかと思ったが、転移する度に便利になっていくので良しとする。ターニャは俺たちを引き連れて、裏口から城内へと入っていく。するとどこからともなく、メイドが現れ貴賓室へと通された。
「暫くここで待っておれ」
ターニャは、女王を呼びに部屋から出て行った。
* * *
貴賓室に緊張が走る――
「久しぶりですね、おっちゃん殿」
胸元のざっくり開いた真っ赤なドレスを着た、ナーナ女王がターニャと一緒に部屋に入ってくる。
「お久しぶりです、ナーナ様」
恭しく頭を下げた。
「妾と、対応が違いすぎるの」
ターニャは頬をプクリと膨らませ、冗談っぽく怒った。
「初めまして、私ローランツ王国の第二王女パトリシアと申します、この度は突然の訪問で大変迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」
そう言って、頭を下げた。
「妾はシルベスタ・レオン・ナーナ――この国を司るものです。パトリシア王女、一国の王女がそんなに簡単に謝ってはいけませんよ」
ホホホと笑い彼女を
「彼女が人間国のお酒を持ってきた。秘蔵の酒だからゆっくり飲んでくれ」
持参した数十本の酒瓶を抱えて、彼女に差し出した。
「まあ、嬉しい! ありがとうね。人間国のお酒を飲むなんて初めてなので楽しみです。それで、こんな所までわざわざ来た理由を教えてくれないかしら」
「魔王様に私を紹介して頂きたいのですが、お願い出来ますでしょうか……」
「理由を聞いても良いかしら」
「この国全体に不幸が訪れる……それほど大きな話なので、ここでは迂闊に言えない。この件に関しては、魔王様に直接伝えなければならないと俺は思っている。だからこそ、貴方に貰ったカードを切ることにする」
俺が横から口を挟んで答えた。全身から汗が噴き出しそうになるのを我慢する。
「――おっちゃんを信じましょう。魔王様ね……あの方とは連絡が取れないのよ……だって私たちに興味を持ってないの。国を治めているのに困ったお方よね」
彼女の話に嘘はなさそうだったので、俺にとって衝撃的な発言に聞こえた。
「では、無理だと言うことでしょうか……」
彼女はおどおどした声で尋ねた。
「取り合えず、せっかくここまで来てくれたおっちゃんの頼みだから、道筋は付けてあげるわ」
冷たい目を彼女に向け、そう言った。
「ありがとうございます」
彼女は大きく息を吐いて、深々とお辞儀をした。
「じゃあ、おっちゃん暫くの間、私たちと付き合ってもらうわね。新作を期待しているの」
「急ぎの用なので、明日一日だけだぞ」
渋々ながらその誘いに応じた……。
「つれない男ね……後はメイドから詳細を伝えます」
ナーナ女王がちらっと俺に流し目を送って、ターニャと二人で部屋から出て行った。彼女が去った後、部屋の空気が緩んだのが分かる。
「私に向けてきたあの目には、ゾッとしました……」
彼女の額から大粒の汗が浮かんでいる。
「まあ、魔人が人間なんぞに、普通なら頼み事など聞くはずはないからな」
「その件に関しては、心からお礼を述べます」
「そんなつもりで言った訳ではないんだが……まだ、魔王の所には行けていないので、礼を言うのは早いな」
そう言って、頭を掻きながら笑った。
彼女と歓談しながら時間を潰していると、食事をメイドが運んできた。メイドはテキパキとテーブルの上に料理を並べ、一礼して部屋から出て行く。テーブルの上に乗せられた料理からは、美味しそうな匂いが漂っている。ただ不思議に思ったのは、俺と王女の料理だけではなく、もう一人分の料理が用意されていた。
「待たせてしもうたかな」
突然、ノックもせずに部屋の中にターニャが入ってきた。ああ、そう言うことかと理解して、何も言わずに椅子に座る。
「昼食を用意して頂き、ありがとうございます」
「かまわない、早く食べようぞ」
ターニャはにんまり笑って食事を勧めた。
―――三人で昼食を食べ始める。
「この後の計画は決まっているのか?」
俺は料理を口に運びながら尋ねる。
「夜までは特に何の予定もないぞ。せっかくなので、近くの町を案内する時間ぐらいは取れるがな」
「それは嬉しいです、是非とも町を紹介して欲しいです」
パトリシア王女は、渾身の作り笑顔で返答した。
テーブルの上の料理が無くなると、それを見計らったようにまたメイドが現れ、テーブルを片づけていく。そうして、お茶と焼き菓子を代わりに置いて部屋から出て行った。
「メイドって凄いよな」
俺は感心しきりであった。しかし二人は不思議そうに顔を見合わせる。
このブルジョア人たちめ――――!! 俺はわざとズズズと音を出してお茶を
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