第180話 ドワーフの企み

 国技館のような形の王宮の一室で、二人のドワーフが密談を交わしていた――


「私はあなたにトカゲ姫を持ち帰るなんて、命令を出した覚えは無いはずですが……」


 王冠をかぶり白いドレスで着飾った女性のドワーフが、一人の男を糾弾している。


「命令違反は承知しているが、この国を救った英雄に掛ける言葉とは、思えませんがねえ」


 キャゼルヌ女王の前で、少し軽薄な態度をとった。


「コージー、そんな冗談を言っても笑えませんよ」


「スカーレット王女は、龍石を手にしている。しかも拳大のどでかい大きさの宝玉だ!!」


「はーっ……リザードマン国の王女だから、国宝級の石の一つや二つぐらい隠し持っていたとしても、おかしくはない話です」


 玉座に肘を置いたまま、コージーに対して無愛想な態度で接した。


「確かに可能性は低いが、イグザス王があの大きさの龍石を、娘に託していたと思われてもしかたのない話か……しかし事実は全く違う。彼女に石を託したのは、貴方が命じた姫の宿泊先の人間から受け取った物だ。俺はその現場をこの目でちゃんと目撃している。嘘だと思うなら、他のメンバーに尋ねて貰ってもかまわねーよ」


「なっ……おっちゃんから龍石を受け取ったとでも!?」


 キャゼルヌ女王は玉座から立ち上がり、声を上げる。


「その石は、ドラゴニア王国の竜王から譲り受けた物だと、おっちゃんは、そう言ってたぜ」


「それは本当の話なのですか!?」


「まだ、俺は旅先から帰ったばかりなので、完全な裏は取れていないが、ほぼ事実に間違いはない。奴は腹芸など出来る人間ではない。スカーレット王女は、巨万の富と同時に、竜王という強力な後ろ盾を、確実に得る事になった」


「まさか、おっちゃんにそのような力があったとは、貴方の話を聞いているのに信じられません。私はあの人間を、完全に見誤っていたようですね……」


 彼女は自分の落ち度を簡単に認める。


「俺の口からはなんとも……ただ、彼女がこの国で暗殺されれば、いかなる理由があろうと、ドラゴニア王国からそしりを受けることは間違いないだろう。いや……竜王とおっちゃんの繫がりは、龍石を与えるほど強いので、そしりだけですめば御の字だ。下手をすれば竜族に、この国は滅ぼされる可能性だってあるぞ」


「とんだお土産を持ち込んできたものですね」


「流石に責任を押しつけられても、俺はお使いに行っただけですよ」


 コージーが馴れ馴れしくそう口にする。


「そうでしたわね……。今後トカゲ姫を守るのは当然だとして、彼女をどう扱うか……傀儡くぐつ政権をたて、隣国と戦うのが正しい道筋に思えてしまいました」


 彼女はそう言って、大きな溜息をついた。


「隣国も戦争で疲弊しているので、追い返すなら今しかないと思うが……一介の運び屋風情が、国家の問題に口出す話ではないですな」


「そんな連れないことを申すでない。私たちは×××なんだから」


 そう言って、女王は小さく笑った。


「それと一月前に、人間国でドワーフとリザードマンの襲撃を受けたと、おっちゃんは怒り心頭でしたな」


「私はその様な命令は出してはおりません」


 コージーの目を真っ直ぐ見つめて、きっぱりと否定する。


「ああ、分かっている。情報が筒抜けすぎるので言ったまでだ。それで女王に追加料金をよこせと伝言を頼まれた」


「貴方には十分な、宝石を与えていたのをお忘れですか」


「いやはや、やぶ蛇になっちまった」


 二人は顔を見合わせ、くくくと笑った。


「コージーよ悪いが、トカゲ姫の警護を増やすから、もう少しの間だけ付き合ってください。これからも、何かあればよろしく頼みますよ」


「女王様の仰せのままに」


 コージーは、静かに王宮を後にした。


 キャゼルヌはテーブルの上に乗せられた、手付かずのワイングラスに口をつけ、一気に酒を流し込んだ。年代物のワインだったが、なんら変わりのない安酒に思えた。


「はーー、まさかあの人間に、私が振り回されるなんて想像もしませんでしたわね」


 彼女はもう一度大きな溜息をついて、不安を紛らわせるようにを煽った。

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