第132話 ドラゴニア王国【其の三】

 『どかっ!!』メイドが部屋から出て行ったとたん、俺はレイラに顔をおもいっきりぶん殴られた。彼女の一発は重く、部屋の床に身体を叩きつけられてしまった。


「痛っっ!! いきなり、何しやがるんだ!?」


 顔を押さえながら怒鳴りつけた。


「おっちゃんさぁ……ソラをどうやって育てたか覚えてるのか?」


「もちろん覚えてるに決まってる。最初は虫を集め、沢山食べさせ――」


 レイラは俺の話を遮り


「もっと前の話しだよ!!」


「……ダイナ川で拾った卵を身体に巻き付けて、仕事場でも暖めていた」


「そう、それだよ!! 竜王たちがソラを大切に育てていたのは間違いないが、おっちゃんがしていた事と、どう違うって言うんだ? しかもソラが生まれたのは何処なんだ! おっちゃんのベッドの中でだろ。育ての親面するなよ、生みの親じゃねーのか。親元で育つのが幸せ……そんなことは、おっちゃんが決めるのではなく、ソラが選ぶことだ! オレたちが全力でソラを幸せにしてあげれば良い話しじゃねーか」


「キュピピピピー」


 喧嘩をするなと言わんばかりに、ソラが俺たちの間に割って入ってきた。


「そうだよな……どちらを選ぶにしても、ソラに話すことをしないと始まらないな。少しばかし目が覚めたよ、ありがとうな」


 俺は後ろを向きながら、レイラに礼を言った。そして、ダイナ川で卵を拾ってから、生まれて来るまでの話しをソラに語りかけた。「クピピピーー」ソラは話しを聞く様子もなくレイラと遊んでいる。ただ、俺自信はそれを話したことで、心の何かが綺麗に洗い落とされた気がした。


*      *      *


「ふーう。食った、食ったあ~~~~」


 ぽこりと膨らんだ褐色の腹をさすりながら、メイドに水を要求している。


「グピピピピー」


 ソラもいつもより多い食事の量に満足したのか、俺の足下で転がっている。竜王が気を利かせてくれたので晩餐会はせず、夕飯は家族で取ることが出来た。


「そろそろ寝るとするか」


 俺はソラを抱えてベッドに運ぶ。ベッドは思いのほか大きく、一人で寝るには十分すぎる広さがあった。ソラはテンションが上がったのか、キューキュー鳴きながらベッドの上を走り回っていた。


「こっちに来いよ!」


 レイラが手を叩いて呼ぶと、ソラはすっ飛んでいく。


 『どん!』俺はソラよりも早く、レイラのベッドにダイブしていた。


「おっちゃんは呼んでないぞ」


 彼女は怒る振りをしながら笑っている。「キュピピピー」そこは自分の居場所とばかりに、ソラは俺たちの間に入り込んできた。


「そういえばソラが家に来てから、レイラとこうして寝るのは久しぶりだな」


「ああ、そうだったかな……」


 彼女は顔をプイッと横に逸らした。


「なんだよ!? 顔を赤くしてお前らしくもない」


「べ、別に何でもない!」


 レイラはおっちゃんが、(ソラに見られていた)あの日の出来事をすっかり忘れているので少し腹立たしくもあり、気づかれても、また恥ずかしいので心の着地点を失っていた。


「キュピピピー」


「ソラも三人で寝るのが嬉しいと言ってるな」


 彼女はソラと俺に早く寝ろとばかりに、優しく布団を掛け目を閉じた……。


 俺は見知らぬ天井を見つめる――


 自分が川の字に寝ることなど考えもしなかった。このまま目を瞑り、目覚めると元居たマンションのベッドの上ではないのかと……。


 レイラの子守歌いびきを聞きながら夜が更けていく――

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