第131話 ドラゴニア王国【其の二】
ソラと両親の再会を無事に終えた俺たちは、話し合いが出来る部屋に通された。その部屋は高級な調度品が立ち並び、塔内とは真逆に近い豪華な作りをしていた。そこで俺、レイラ、竜王、竜妃の四人だけの会談が行われた。
「先ほどはみっともない姿を晒してしまい、誠に申し訳なかった」
「親として当たり前の行動だ……恥じる必要はない」
「そういって下さると話しが続けやすい。まずは私の話を聞いて欲しい」
竜王は静かに語り出す――
「竜族の卵が孵るには幾つかの条件がある。竜の子は卵の中から外の世界を覗くことが出来、それが興味に繋がり生まれ出ようとする。しかし普通は殻を割るほどの行動力はなく、そのままただの石と化す。そこで必要になるのが愛情だ。竜の子はその温もりによって、愛情を欲し殻を割り生命を得る。おっちゃん殿の愛情が注がれ続けて頂いたからこそ御子は生まれた。貴方には感謝しかない」
「我々竜の子供に、必要不可欠なのが魔石を吸収することなのだ。我が子は竜族の中でもより大きな魔力を持ち卵の中で育っていたが、小さな卵のまま空から落ち、森の中で自らを守るためにその魔力の殆どを使い果たしてしまっていただろう。魔力のなくなった子は、死ぬのが
「竜王として、改めてお二人にお礼が言いたい。我が子を助けて頂き感謝いたす」
「おっちゃん様、レイラ様……私からも本当に感謝申し上げます」
二人はテーブルに額がつほど深くお辞儀をした。
「礼は十分頂いたので、顔を上げてくれ。大切なのはこれからする話しだろ」
「そうだな……」
「まず、我が子にソラと呼んでこれまで我が子として育てて来た。故郷の言葉で、美しい空から名前を取って、ソラと名付けた。出来れば名前を変えて欲しくはない」
「……良い名前ですわ」
竜妃の反応は思いのほか良かった……。
「一族に恥じない名前だ」
竜王はその名前を噛み締めるように目を閉じた。
「正直、俺はソラを譲る気は半分無かった……しかし子供が生みの親に育てられないのは不幸なことも十分理解出来ている。俺はソラとどうやって別れるのか答えが出ない……」
竜王は意外なことを言いだした。
「おっちゃん殿それは杞憂かもしれない……竜族にはもう一つ、すぐにやらなければならない必要な儀式が残っておる。それが記憶の引継ぎだ。我らは生まれてすぐに、竜の記憶を代々伝えていく事をする。そうすることで知性が大幅に増え繁栄してきた」
俺とレイラはその話を聞いて唖然となった。最初に聞いたときは到底信じられないと思ったが、こんな場所で竜王が嘘を言うはずもない。
「ソラが儀式を受けることで、今の現状を理解出来ると言うことか……」
「そうなるな。ソラが人間側で育つのを選ぶ可能性はゼロではないが、竜族を間違いなく選択するはずだ」
彼はきっぱりと言い放つ――
俺はそれを聞いて、何も言えずに口を噤んでしまう。
「その儀式はいつするんだ?」
そんな情けない俺に代わって、レイラが尋ねた。
「用意はすぐに出来るので、明日には儀式を行いたい。その期間は三日かかるので、二人には暫くは待っていて貰いたい」
「ソラに必要なのであれば、早くその儀式を受けさせてやってくれ。ただ今日だけは、我が子として預からせて貰う。もちろん儀式の後もそのままかもな」
レイラがソラを抱きながら、男前な返答をした。
竜王は暫く間を置いてから
「了解した。二人にはこのメイドを付けるので、彼女に頼めばすべてやってくれる」
そう言って、一人のメイドを紹介された。驚いたことにそのメイドの顔は完全にトカゲで、スカートの裾からは緑の尻尾が生えていた。
「メイドのアリッサです。何かありましたら私に何なりと申しつけて下さい」
彼女はぺこりとお辞儀をした。
「では、また明日会おうぞ」
二人は席を立って、最初の会談は終了した。
俺たちは竜王と別れ、メイドのアリッサに泊まる部屋まで案内された。
「お客様、この部屋でごゆっくりとおくつろぎ下さい。何か御用がありましたらこのベルを鳴らして頂ければ対応させて頂きます」
彼女は丁寧なお辞儀をして部屋を出ようとした。そんな彼女を俺は呼び止めた……。
「アリッサさん、失礼は承知で尋ねるんだが、どうして顔と尻尾は人化出来てないんだ?」
「フフッ、私は竜ではなく、リザードマンですよ。それに忠告しますが、人化という言葉は竜族にとって侮蔑の呼び方なので気をつけて下さいね。竜族は身体を小さくすることで、食べ物を消費する量も押さえられます。また、小さくなった姿は古代の神様を模した姿であり、決して人間に合わせた姿では無いのですよ。もちろんエルフ化やドワーフ化も然りです」
彼女は笑いながら教えてくれた。もしこれを聞かなければ『人化』という言葉を。竜王の前で使ったかと思うと、背筋に冷たいものが走った。
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