第90話 急務
持ち帰った荷物が床に無造作に並ぶ。
「おっちゃんちょうど良かった! 今から馬車を借りてくるので、出立の準備をしといてくれ」
「ああ、任しておけ」
何が起こっているのか全く知らないまま返事を返した。その後、テレサが大怪我をした理由を、ルリから詳細に聞いて顔が真っ青になった。
事の起こりは、数日前までさかのぼる。クリオネがいつもの如く突然、家に来訪してきた。その日はルリしか家に居なかったので、おっちゃんが居ないと確認した彼女は、すぐに帰ると思っていた。
クリオネの用件は、テレサの安否を確認するため訪れていた。ルリでは役に立たないと軽い毒を吐いて、言付けを頼んで帰って行く。ルリはこの情報を運んできてくれたクリオネに感謝した。
その情報とは――
王都での式典の最中に、第二王女が暴漢に襲われかけた。しかし、白薔薇騎士団が未然に防いたが、副隊長が大怪を負ったと、城内の噂で彼女は聞いた。そこでクリオネはその噂が真実かどうか確かめにいったが、王宮に箝口令が敷かれていて真実がつかめなかった。宮廷調理人のレベルでは情報の確認は取れそうもなかった。そこで、食材を買いに行くと嘘をついて、この大切な話をタリアの町まで運んできた。
翌日、レイラが帰って来ると、すぐにクリオネの言付けを伝えた。彼女は真っ先に、白薔薇騎士団の詰め所に走り、テレサの安否確認をした。けれども、面と向かってテレサの情報を誰も話してはくれない。ただ、レイラと面識のある隊員の一人がオフレコで、テレサが怪我を負い王都の病院で治療を受けていることを知った。しかも彼女の身体は、かなり危険な状態だと伝えられた。
俺は部屋に戻り王都に行く準備を整える。家に置いてある、干し肉と焼き菓子と水をバッグに詰め込み、レイラの帰宅を待つ。暫くすると蹄の音と共に、彼女が御者と馬車を引き連れて戻っきた。俺たちはそれに飛び乗り、タリアの町を出立することになった。
車内でテトラの話題が真っ先に出た。
「テトラは無事に母に会えたのだな!」
レイラは満面の笑みを浮かべながら、安堵する。
「ああ無事に会うことが出来たよ」
「良かった!」
ルリも小さな身体をプルプル震わして喜びを表現した。
早馬を使っての移動だが、すぐに王都に着く事はないので話す時間はたっぷりとあった。
俺はテトラとの冒険談をゆっくり二人に聞かせた。
旅先で大鬼に襲われ死にもの狂いで戦い勝利する。ドワーフ国を経由してエルフ皇国に行くために密輸団を使う。道中、盗賊に合い、そいつらを返り討ちにする。テトラを皇国に届けたら、衛兵にボコボコに蹴られ、殴られ、牢屋に入れられる。そこにエルフ皇国の皇妃が来て、俺の怪我を魔法で治す。テトラは皇妃の娘で皇女でした。馬車に乗って王宮に行きました。そこで皇妃と皇女と一緒にご飯を食べたら、皇妃は大食いでした。帰りはしんどかったので、転移魔法でラミア王国を経由して、タリアまで一時間もかけずに帰宅出来ました。
――――Fin―――
「おっちゃん、話しは面白かったけど、内容を盛りすぎだぜ!」
俺の肩をバンバンと何度も叩く。
「うんうん」
ルリはジト目で俺を見る。
「テトラの母親が大食いだったのは納得だな」
「うんうん」
お互いの情報交換をしながら時間を潰す。久しぶりに揺れのある馬車の旅だったが、腰をさすりながらも会話を楽しむ余裕があった。
「しかし、馬車の旅は覚悟したけど、この馬車は大分楽だな」
「流石に駅馬車は乗れないぜ、四頭立ては、急すぎて借りるのは無理だったが、二頭立の優秀な馬で我慢してくれ」
「よっ!! 上級冒険者様」
「そんなに褒められても、何も出ないぞ」
車内はつまらない話しで盛り上がる。
馬車の旅は思った以上に重苦しい雰囲気ではなかった。否、俺たちはわざとその空気を作っていた。途中休憩を取る
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