聖なる卵

ちょぴん

第1話 むかしむかしのある国のおはなし

むかしむかし あるところに ひとつのおおきな国がありました


その国には なんでもありました


空飛ぶ船

遠くを見る鏡 

星まで届く機関車

尽きぬ恵をもたらす命の木


他の国から奪ったもの


作り出したもの


本当に なんでもありました



ただし たったひとつ 得られないものがありました



聖獣でした



聖なる獣は願いが生み出す存在


抗うことのできない災害に立ち向かう知恵と力を貸すため


過酷な環境で生きる強さを求めるため


その国に足りないものを満たすため


その願いを叶えるためにある聖獣



あらゆるものがあるその国には願いようのない存在



でもその国はこれまで

どのようなものでも

いかなる方法を使ってでも

手に入れてきました



だからまず ほかの国から奪おうとしました


しかし 聖獣の守る民たちの願いのチカラで聖獣の檻は壊されてしまい


奪うことはできませんでした



次に 聖獣の卵を奪おうとしました


まだ 聖獣として守るチカラのない状態なら奪えると思ったのです


しかし 聖獣の卵は現れた場所から動かすことも壊すこともできません


再び 奪うことは叶いませんでした



そのため その国は ほかの国から聖獣を奪うことを諦めました


しかし 聖獣という存在を諦めることはできませんでした


次にやろうとすることはただひとつ


聖獣をつくることでした



聖獣に最も近い存在とされる精霊と


聖獣の色をもつあらゆる白き魔獣と


強い願いを持たされた人間の子どもを使って



たくさん失敗して

たくさんの命が失われ

たくさんの悲しみに溢れ

生み出されたのは


聖獣の色を持たない真っ黒な何かでした



真っ黒な何かは聖獣とは言えない存在でした


しかし 願いを叶えるチカラを持っていました



材料とされた者たちの願いを叶えるためだけに


終わりをもたらすためだけに


望まれた存在



真っ黒な何かは願いを叶えます


思いの強さをチカラに変えて 願いのとおりに国を滅ぼしました


もう二度と 同じことが繰り返されぬようにと


その国に 呪いをかけました


そして その国は 望むことの叶わぬ地となりました




真っ黒な何かは 願いを叶えると 消えていなくなってしまいました


その存在を望む者がいなくなったからです




あとに残されたのは


誰に知られることもなく生まれていた聖獣の卵のみ


荒野の広がる乾いた大地に 命の欠片は感じられず


その卵から聖獣が生まれることを望む者のない


世界の終わり



むかしむかしのある国の終わりのおはなし

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