第2話 巨大ベッドと複数女子
亡くなったと思った幼馴染トキの事を思い出していたら車に跳ねられて私は死んだ…
と思ったら、巨大なベッドの上で気が付き、幼馴染と再会した。
幼馴染が女の子に囲まれた状態で。
トキを囲んでいる女の子を見ると、いくつかおかしな点に気が付く。
左脇に居る子は金髪碧眼の美女だが背中にトンボのような羽がある。
右脇に居る子は紫の髪に赤い目に少し尖った耳が見える。
その後ろに控えている子はこめかみに角が生えている。
シーツに入ってうとうとしていた子が欠伸をして口元を押さえた、手の甲には鱗が見える。
……何だろうこの特殊な空間。
臨死体験?それとも私が望む夢を見ている?
三年前に告白してきた幼馴染が不慮の事故で亡くなったと思っていたら実は生きていて、までは許容できる。
しかし、幻想世界的な多種族の女の子達と一緒に、ベッドの上で告白した対象をお出迎えとか、どんな状況……私は全くそのような展開を望んでいない。
「彼女は幼い頃からともに過ごした私の大切な人、席を外してくれませんか?」
私が状況に混乱している間に、トキが彼女たちに向けてこう言った。
トキはこんな喋り方をする人ではなかった。
彼女たちがトキに対して一礼をした後、部屋を出た。広い部屋で二人きりになった。
「アヤちゃん」
懐かしむように私の名前を呼ぶ、トキの姿形をしたこの人は誰だろうと私は考えていると、唐突に抱きしめられた。
「……もう二度と会えないと思ってた、また会えるなんて!」
トキの声が震えていた。彼の心臓の音が聞こえる、トキは生きている。
あまり強く抱きしめるから、もがいて隙間を作り少し離れたら、トキの首元が見えた。
ほくろが三つ。
「冬の大三角形…………本物のトキだ」
目が潤んだが、トキが呆れて笑った。
「アヤちゃん、どこで俺を認識してんの!?このイケメンを、ほくろだけで認識しないでよね!!」
頬を両手で包まれて視線を強制的に顔面に向けさせる。しかも近い。
学生時代頻繁にこんなことをして、よく揶揄されたが、私のせいでなくトキの行動の問題だと今でも思う。
でも、今は喜びと懐かしさで涙がにじんだ。
「この自意識過剰自己肯定の発言、トキだ…生きていた、てっきり死んだと…」
「このドライな感じ、アヤちゃんだ……あ、ヤバ、鼻水出てきた、俺イケてない…」
トキが涙声でちょっと離れて、長い袖で鼻をすする。
トキは昔から自分の容姿に根拠のない自信を見せ、自分磨きに余念がない男だった。
当時の女子は知っているだろうか、いつの間にか人の部屋に入り込んで鏡を見て整えた髪型などを指さし、イケてると言わせるまでひたすら感想を求める彼の奇行を。
亡くなったと思っていたから、今までの行動は自分の気を引くための物だったのかと、もっと優しく接していればと後悔していたが……
「ねーねー!俺の今の恰好大丈夫?本当はイケてる恰好したいんだけど、神官上位職業の問題で仕方ないんだよね。重要職についたらかなり不自由になっちゃったけど、アヤちゃんに一番に会えたし本当良かった!って言うか俺凄くない?短期間でかなりの職業極めちゃったんだけど!しかも、世界で5人しかいないポジションにいる俺って凄いよね!?…この世界も慣れたら楽しいよ、アヤちゃんは何の職業にするのかな?」
……元々よく喋る性格だったが、三年分の会話が降り注いでいる気がする。
大半何を言っているか分からないが、学生時代校則を変更するために二年で生徒会長になった時も、その日の夜に人の部屋に侵入して凄いねと言うまで喋り続けていたのを思い出した。
いろんな流れで絶交宣言をする羽目になったのだが。
あの頃は若かった。
「私はOL……トキは?」
「え?」
マシンガンのように喋っていたトキが、急に我に返ったように俯いて考え込む。
「あっちの世界だと、そうだよな……でもここで俺から全部説明したらみんなが怒るかな、怒られるのはちょっと嫌だなぁ……」
ぶつぶつと独り言を言いながら、思い出したように私を見る。
「あれから、何年経った?」
あれが何を意味するのかは多分、トキが行方不明になってからだと感じ私が短く「三年」と答える。トキは「そう」と呟いて、しばらく俯いていた。
だがすぐに顔を上げて「まあ、仕方ない、過ぎた事は!今が大事!」と笑う。
「アヤちゃんもトラックに跳ねられたの?やっぱりあのカーブ?あそこもう道封鎖した方がいいよね!大事な場面で突っ込んでかっこつかないからさ!」
笑い話のように自分の死因を語る、今、生きているから笑って語る事ができるのだろう。
つられて私も笑ってしまう。
「私はトラックではなく黒塗りのベンツだったけど」
告白直後にトラックに跳ねられるのは、後日生きていればある意味笑い話だろう。
黒塗りのベンツだって示談金を求める側が求められる側じゃないか、と思いながら、ふと、トキを見ると、真剣な顔でまた何か考え込んでいる。
「トキ?どうしたの?」
「いや、その」
トキは意を決したように手を合わせた。
「俺がトラックで、アヤちゃんがベンツだと、俺がカッコ悪いからそれは他の人には言わないで?本当お願いします!」
「……分かった」
一瞬何か不都合でもあるのかと思ったが、私の知っているトキだった。
三年の間何をしていたかと言えば、血のにじむ思いで努力してこの世界に転生した人を導く職業についたのだとトキは言う。
転生者は虚空から落ちてくる事が多く、ダメージ軽減の為に最大級のベッドを準備してお出迎えしているのだと言う。
巨大ベッドお出迎えの謎が解けた気がしたが、異種族の女の子達が何だったのかはまだ分からない。
ただ、この世界の職業に関係しているらしい。
聞きたい事があったが、トキに休息することを勧められた。
夜も深い、明日から長い説明が始まると、暖かい飲み物を入れてくれた。
トキが入れた暖かいココアを飲む。こんなに美味しく感じるとは思わなかった。
トキが生きていたから私もこれから何かを嬉しく感じたりして生きてもいいのだと思うと、ほっとしすぎたのか急に眠くなった。
転生者を迎えるため客間は多めに確保されているらしい。
猛烈な眠気に襲われて促されるままベッドにもぐりこむと、私の意識はすぐに眠りに落ちた。
だからそのあとのことは私には分からない。
「……眠り薬が効いて良かった……アヤちゃん…俺もどうすれば良いかまだ分からない、でも必ず………」
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