第2話 すれ違いの結婚生活

結婚生活は幸せなものになるはずだった。でも違った。チーフと違うチームに配属になったことから、日常の意思疎通ができなくなった。


また、早番、遅番があり、すれ違いが多くて、一緒にいる時間が少なくなった。でもこれは結婚前から分かっていたはずだった。


結婚前に非番が同じ日に会っていたころとは違って、毎日がすれ違いだと非番が重なる日があっても二人とも疲れているので、どこかへでかけるとかそういう気持ちになれなくて、二人で一日中寝ていることが多くなった。


そのうちに愛し合うことにも慣れて飽きてきて、一緒に生活しているだけといった感じになってきた。そして徐々にお互いに気を使い合うこともなくなってきた。


私は毎日仕事で疲れているので、家事が十分にできていなかった。私が遅番の時に早番の彼に朝食の準備ができなかったこともあったし、早番の時も夕食が準備できないこともたびたびあった。そんな時彼は腹を立って私を責めた。


そして彼はいつもいらいらするようになって私に八つ当たりするようにもなった。始めはそれを我慢していたけど、だんだんエスカレートして、暴力を振うまでになった。


八つ当たりの原因はホテルでの料理の出来不出来だった。職人気質が人一倍強い彼は料理の評判が良くないと機嫌が悪かった。


そういう素振りは、付き合っていた時は私に見せたことがなかった。それに気付かなかったのかもしれない。結婚して遠慮がなくなったのかもしれない。


私はいたたまれずに家出をして、ホテルの友人のアパートに泊めてもらった。彼は自分が悪かったと思ったのか、私を探しに来て謝って私を連れ帰った。


私は彼がそれを直してくれればいいと思って生活を続けた。でも、しばらくするとまた元のように八つ当たりして暴力を振う。私は家出をして友人のアパートへ行く。そういう繰り返しが何度かあった。


私は彼を慰めるすべを知らなかった。おじさんにはこういう気質はなかったし、機嫌が悪くなることもなかった。


ただそれを受け止めるだけだった私が悪かったのかもしれない。もっと対峙すればよかったとも思う。


それに彼のお金の使い方が荒いのが結婚して初めてわかった。私を一流のレストランヘ連れて行ってくれたのはありがたかったけど、とても高価なところだった。


彼は料理の勉強のためと言って、結婚してからも非番の日には一人で出かけてレストランめぐりをしていた。そしていつも酔っ払って帰ってきた。


お給料は全部自分で使ってしまって、住居費以外の毎日の生活費は私のお給料から出すしかなかった。


それでもホテルに勤めていると賄いはあるし、昼間はほとんど二人とも家にいないので光熱水費もそれほどではなかったから、生活費はそう多くは掛からなかった。


だから私のお給料でなんとか生活できていた。それで私がおじさんと一緒にいるときから独身の間に貯めたお金には手を付けずに済んでいた。


今日は遅番だったけど10時前にはアパートに帰ってこられた。彼は今日非番で朝から1日休みだったが、やはりアパートにはいなかった。最近は非番にはギャンブルに出かけることも多くなった。


私とのすれ違いが多いので、寂しくて自然とそうなったかもしれない。そういう日は夜遅くお酒を飲んで帰ってくる。そして、ギャンブルに負けた日には私に八つ当たりする。


私の机の引き出しが少し開いているのに気が付いた。中には預金通帳と印鑑を入れていた。確かめると通帳と印鑑がなくなっていた。彼が持ち出した?  信じられなかった。


彼は11時過ぎに帰ってきた。酒に酔っている。


「私の預金通帳と印鑑を持ちだしたのはあなたですか?」


「そうだ、ちょっと、借りただけだ」


「私が苦労して貯めたお金を勝手に使うなんて、あれは私が結婚する前に貯めたお金です。とても苦労して貯めたお金なんです」


「結婚して夫婦なんだから夫の俺が使ってもいいじゃないか。文句あるか」


「でもそれだけは私のものです」


彼は私を殴って、倒れた私を脚で蹴った。もう一緒に暮らしていけないと思った。すぐに通勤用のバッグに思いつくものを入れてアパートを出て来た。外は雨が降っていた。冷たい雨だった。


彼は追いかけてこなかった。酔っていたからできなかったのだと思う。もう帰らない。


その晩はカラオケボックスに泊まった。

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