第45話 2人のこれから

 これからデートだという2人を見送って、

 部屋へ戻った私はベランダへ出た。


 都会の街は周りのビルや家々から漏れる電気で

 結構深夜まで明るい。

 それに加えこのシェアハウスの建物は高台に

 建っているので、かなり遠くまで見渡す事が出来た。


 見える訳はないのに ――

 思わずマンションの方向へ目を向けた。


 2度と会わないって決めたのは自分。


 だから今は、まだ同じこの町に一緒にいられるって

 事だけで良しとしよう。


 これから私は、

 もっと強くならなきゃダメなんだ。


 もし、何年か後、

 彼と偶然何処かで再会しても、笑顔で話しが出来る

 ように……。


 私は強くなる。


 ―― コン コン



「はーい?」



 開いたドアから顔を見せたのは、

 向かいに住む華人系アメリカンのジェフ。



「ハ~イ・マイハニー、おじゃまですかぁ?」


「ううん、そんな事ないよー、どうぞ入って」



 と、言うと「では、おじゃまします~」と

 ジェフを筆頭にこのハウスの住人さん達が

 ゾロゾロと入って来た。

 皆、手に酒と肴、それにスナック菓子を

 持っている。

 どうやらこれから、夜通しの飲み会になりそうだ。  


*****  *****  *****


 和巴は俺を待っていてくれる、

 そう信じていた。


 スピード全開でマンションへ急行し、

 パーキングへ車を停める。


 エレベーターを降り、

 部屋のドアにカードキーを認識させようとするが、

 元々この作業は苦手で手間取り、

 認識したピーッという電子音と同時に

 ドアを蹴破る勢いで開け、室内へ。



「かずっ!」



 名前を叫びながら各室を探し回る。


 あいつの私室にとあてがった一室 ――


 至る所に積み重なっていた経済書の類は

 綺麗さっぱり消えてなくなり。

 クローゼットの俺が買った服とアクセ等は

 そのまま残されていた。


 そして、とどめは、

 

 テーブルの上に

 メモと一緒に置かれていたプラチナのリング。



  ”匡煌さん、嘘ついてごめんなさい。

   あなたは自分の道を奥様と歩いて下さい”



 何が奥様だよ……

 俺のパートナーは和巴、お前だけなのにっ。



 俺はリングを握りしめ、その場にへたり込んだ。



「かず? 俺を1人置いて行っちまったのか? 

 本当にもう帰って来ないのか?

 ……お願いだから、嘘だと言ってくれ……」

 


 本当のお袋が死んだ時以来、初めて泣いた。


 世間体なんて下らないもん、

 とうの昔に捨てていた、

 各務とも縁を切る覚悟でいたのに……っ。



「戻って来い、和巴……愛してる」




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