第37話 驚き
ジリリリリリリ~ン ――――。
枕元に置かれた目覚まし時計がベルを鳴らし
続けている。
無人だと思っていた布団上の小さな膨らみが
モソモソと動いて、掛け布団の中から
ぬぅ~と伸びた手が時計のベルを止めた。
そのひと息違いくらいで部屋のドアが乱暴に開けられ
『和巴! 大変・大変。一大事よ』と
利沙が飛び込んで来た。
掛け布団の中から和巴のくぐもった声。
『ごめん、もうちょい寝かせて』
利沙は有無を言わさず和巴が引っ被ってる
掛け布団を引っ剥がした。
「これ見なさい」
と、朝刊らしい新聞紙を和巴へ突きつける。
和巴は寝ぼけ眼を、擦り・擦り ――
何回か目を瞬かせ、その新聞紙の一面記事を
見て。
「……う、そ」
その、トップ記事には京都地方裁判所が、
嵯峨野書房の民事再生法手続きに於けるスポンサーに
各務書店を指定したと記載され。
監督委員に同社役員の宇佐見匡煌氏が着任したと、
知らせていた。
「その様子だと、彼からは何も知らされて
なかったの?」
「それどころか、匡煌さんが各務書店の役員だったって
事も今知ったよ……」
(今の今まで、彼はフリーカメラマン
だと思っていた)
「どうするのよ。このままじゃあんたと彼……」
「どうするも、こうするも、今さら就職取り消しは
出来ないし。彼には ――」
そこで言葉を切ったのは、匡煌が結婚するのは
自分じゃないと言いたくなかったから。
「彼には?」
和巴は答えず、パッと起き上がって出かける身支度を
する為、ユニットバスへ向かった。
「ちょっと和巴ぁ」
***** ***** *****
まだ心配気な利沙とは途中で別れ、
とりあえず1人なって少しでも気持ちを
落ち着かせようと公園へ入ったところで
千早姉から電話が入った。
『―― あんた宛に学校から速達が届いてるわよ。
旅行から戻って渡そうと思ったけど、至急って封筒に
書いてあるわ。どうする?』
至急?
速達にするほど急ぎの用事なら学校で直接
言ってくれればいいのに……
「OK、これからそっちに行くわ」
***** ***** *****
茶の間にはばあちゃんしか居なかった。
「千早姉達は?」
「明日が開業だから準備。ほら、学校からの手紙」
そっか、**のホテル、明日からだっけ。
「ありがと」
封筒を開けると、
中には『交換留学の内定について』という表題の紙が
入っていた。
交換留学?
『この度、香港(中華人民共和国香港特別行政区)と
我が京都府が姉妹都市提携を結び。
それを記念して交換留学生を派遣するにあたり、
第1期交換留学生に小鳥遊和巴様の内定が決定
致しましたので、ここに急ぎご連絡をいたします。
つきましては、3月1日に海外交流振興課次長より
詳しい説明を行いますので市庁舎までお越し
下さい』
内定? 申し込んでないけど?
「何だって? 学校は」
祖母に手紙を渡すと、
「凄いじゃないか!
やっぱり『トンビが鷹を生む』って事もあるんだ
ねぇ」
超喜んでいる。
孫が学校に認められていることが嬉しいらしい。
「けど、留学には大金がかかるし、
就職も決まってるよ……」
「でもチャンスなんだろ?」
「今度の就職先は私を編集部へ配属したいって言って
くれてるの。多分行かない。これ、千早姉達にも
見せといてね」
交換留学……魅力がないといえば嘘だ。
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