第12話 小父さん、って……
「―― ご満足頂けましたかな?」
「えぇ、もちろん。すっごく美味かったです」
「それはよかった」
宇佐見さんは店員さんを呼んだ。
「ご馳走様、美味しかったよ。会計はこれで」
店員に手渡すカードに私は目が釘付けに!
……ブラックカード?
しかも、アメックスのやつ。
……いい年して親の脛かじり、って奴?
私の中で『危険人物』メーターがぐぐ、
ぐーんと上がった。
「どうした?」
「へ? ―― あ、ご馳走様でした」
一応、私は頭を下げた。一応ね。
「いいえ、お粗末さまでした。約束通り
お宅まで送るよ、近くの駐車場に ――」
送り狼警報発令中!!
「い、いえ。ご心配には及びません。
まだ、電車あるし歩いても帰れます」
(いや、さすがに新京極から嵐山まで徒歩は
キツイだろ)
宇佐見さんは言葉を遮って断る私を訝しげに見た。
「いや、送るよ。早く帰らなきゃいけないんだろ?
高速使えば……」
「電車で大丈夫。今日はありがとうございました」
頭を下げて、宇佐見さんが何か言おうと
しているのを聞かずに店を出て、
足早に駅へと向かう。
マジ、あの男何者??
アメックスブラックカード持ってた。
カメラマンってそんなに儲かるの?
という事は、今日乗ってたベンツもあいつの車?
私の家まで送ると言った……まさか、
送り狼って事はないだろうけど、
あの年でブラックカード?
怪しすぎる!
あぁいうのには関わらない方がいい!!
”君子、危うきに近寄らず”
けど……大学はもちろん、
嵐山に住んどるって事もバレている……
やばいなぁ……本意ではないけど、何か護身具でも
身に着けようか?
とにかく早く駅に着こう!
早く構内に入らないと、何か嫌な予感がする……。
私は駆け足で駅に向かった。
角を曲がると、駅が見えた!
あぁ、後もう少しだ!あと ――
突然、私の行く手を阻むように黒い車が歩道に
乗り上げた!
メタリックブラックのベンツ? まさか……
あ ―― やっぱりあいつ!
こんな事なら無理にでもお酒飲ませておけば
良かった……。
あ、降りてきた! 追いかけてきたの??
何か無表情。
食事代でも請求に来たのかな?
なら、なけなしのへそくりで払うしかない!
少し後退さった私の前に宇佐見さんが立ち、
溜息をついて笑った。
「オレはよほどキミに警戒されているみたいだな」
「はい」
宇佐見さんは突然私の腕を掴んで歩き出した!
「ちょっと! いきなり何よ?! 放してっ!」
必死で抵抗するけど、力じゃ男に敵わない!!
「おとなしく乗れ」
強い口調で言いながら運転席側の後部座席のドアを
開けて無理矢理、私を押し込んだ!
やばい! 若狭湾に連れて行かれる!!!
勢い良く押し込まれたせいで後部座席に
投げ出された様な形になったが、すぐに体制を
整えてドアノブに手をかけた。
―― が、いち早く運転席に座った宇佐見さんが
ドアロックをかけた。
「送ると言っただろ? 大人の言うことはちゃんと
聞くもんだよ? 学生さん?」
笑いながら私を見た。
「……」
仕方なく、無言で座席にもたれかかると、
それを確認して宇佐見さんが車を発進させた。
「東山大路、だったよね?」
「……はい」
「若狭湾には連れて行かないから安心して?」
「え?」
私は宇佐見さんを見た。
「『私をどうするつもりだ』と顔に書いてある」
「……」
その笑った顔が、妙にムカつく。
「オレは、人の出会いは一期一会だと考えてる。
夕方キミに会ったのも、キミとオレの出身が同じ
だったのも全て偶然ではない。キミに焼肉を奢った
のもね」
「はぁ……」
「たとえ偶然だったにしても、そんな出会いこそ
大切にしていかなきゃ勿体無いだろ?」
また笑いながら、
宇佐見さんはタバコに火をつけた。
車は高速に入り、私は久しぶりに見た高速からの
夜景を眺めていた。
胃が消化を始めて、車の心地良い振動と暖かさで
瞼が重くなってゆく……
でも! ここで寝てしまったら、
どこに連れて行かれるか分からない ―― って、
思うのに……
明日も早いなぁ……あ、利沙に**のレポート
返しておかなきゃ……
睡魔に負けて、私は目を瞑った。
―― あ、れ?
目が覚めて運転席を見ると宇佐見さんがいない。
しかも! ココって若狭湾??
天の橋立じゃない?!
一瞬本当に拐われたと思ったが、宇佐見さんは
外でタバコを吸っていただけ。
車のドアの開閉音で、宇佐見さんは振り向いて
私に微笑んだ。
「よく眠れたか?」
「はぁ……」
「いつもは何時に起きるんだ?」
「ん~ ―― 始発の時間には大体起きとるけど」
「早いな、オレの寝る時間だ……」
「あの、おっ ――」
危うく”おっさん”と、言いそうになって、
慌てて口をつぐんだ。
「―― そろそろ行こうか」
「はい」
宇佐見さんが助手席のドアを開けてくれたので
素直に助手席に座ると、
後部座席に置いていた私の荷物を笑いながら
取ってくれた。
「ありがとうございます……」
「そうやっていつも素直だと、めっちゃ可愛いよキミ」
「私は何時だって素直で可愛いです」
「アハハハ ―― こりゃ、負けた」
宇佐見さんは笑いながら車を発進させた。
渡月橋を越えた辺りからカーナビに代わって
道案内。
実家の前まで送ってもらい、宇佐見さんに
きちんと礼を言った。
「ありがとうございました、お肉と送迎」
「いいえ~、仕事頑張って」
「はい、宇佐見さんも」
私は少し笑った。
そして、車から降りて裏の勝手口から家に入る。
私が身構えていた以上に彼は悪い奴でも
なさそうだ。
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