第8話 夢と現実の狭間で  ②

 数日前、義兄とちょっとした言い争いをしてから、

 家には帰りづらくなってしまって


 ――  ってか、義兄と顔を合わせずらくて。

  

 利沙のお宅へお世話になっている。

  

 もう、物心つく前からしょっちゅう入り浸っていた

 第2の実家といってもいいくらいの家。

  

 だから、私がココにいるって事は家族にも知れて

 いるようで、1週間目の夜 ――、

 『母さんが持たせた』と、甥っ子の真守まもるが私の

 着替えとみさえさんへの差し入れを持ってきて

 くれた。

  

  

「―― あ、あのさー、和ちゃん?」


「んー?」


「……ほら、うち父さんって典型的頑固オヤジだから

 自分の気持ちも素直に言えないけど、ほんとは

 和ちゃんがすっごく大人になったって喜んでるん

 だよ。それに、和ちゃんが帰ってこないから

 凄く寂しいみたい」

 

「……」


「だからさ、頃合いみて帰ってあげてよ。ね?」


「……うん、了解……着替えと差し入れ、

 ありがとね」




 実は、今日の放課後。

 学部の主任教授から呼ばれた ――。

  

 こんなの年に1回か2回ある程度なので、

 ”何事?”と、いそいそ執務室へ向かえば、

  

  

「―― キミが先日断った嵯峨野書房さんから

 また連絡があってね。お話ししたら、

 是非とも我が社へ来て欲しいって言うんだ」

 

 

 話しって……この人は一体何の話しをしたんだ?

  


「明日の約束を取り付けておいたから、

 履歴書を持参で行きなさい。会社の場所は分かるね。

 担当は人事部の支倉さん。

 ちゃんとスーツを着て行くんだよー」

 

 

 私はひと言も意見を言えないまま、

 追い立てられるよう教授の執務室から出ると、

 廊下に利沙が待っていた。

  

  

「―― 何だって?」


「……嵯峨野書房からまた来てくれって、

 電話があったって」


「やったやん! ハイ、これで就活は終了」

 

 

 『このご時世に、会社の方から内定取り付けて

  くれるなんて稀な事なんよ』


 この前、利沙も言ったよう。


 ここは棚から落ちてきたぼたもちを、

 素直に喜んで受け取るべきなのだろうか……?


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