第6話 おっさんと桜並木

 結局、あれよあれよという間に外へ連れ出されて、

 あつし他ほとんどの男子が羨望の眼差しで見ていた

 レクサスLFAの助手席へ押し込まれ ――、

  

  

「さぁ、シートベルト締めて~?」



 和巴は、股間を蹴り上げてまで逃げた男の

 運転する車で何処へか? 連れて行かれる。


  

 そして和巴は乗ってから気が付いた。

  

 この車……うちの会社のおんぼろ社用車よか、

 よっぽど乗り心地ええかも……。

  

 車はとても滑らかに走り出したが。


 イザって時すぐに逃げられるよう、  

 和巴の手はシートベルトを外すスイッチと

 ドアノブにずっと掛けられたままだ。

  

 傍目にも緊張しているのがはっきり分かる。

  

  

「参ったなぁ。オレってそんな信用ない?」


「(はっきり即答)はい」



 沈黙…………

  

 こんなおっさんと共通する話題などないと思うが、

 こんな沈黙には耐えられない……。

  

 何か喋らないと……。

  

  

「おっさんって、一応リーマンでしょ? 平日の

 真っ昼間からふらふら遊び呆けててええん?」

 

 

 和巴は宇佐見に問うた。

  

  

「……おっさん?」



 少しの間があいて、和巴をチラ見した。

  

 この反応……、

  

  

「おっさん ―― や、なかった?」


「……釣り書にも載せてたと思うが ―― 一応

 今年30だ」

 

 

 因みに、うちの実姉も義理の兄も

 30才の頃”おばさん・おじさん”呼ばわり

 されると、めっちゃ怒った。

  

 まぁ、まだ20代前半の私にとって30代の

 年上は”おじさん・おばさん”以外の何者でも

 ないんだけどね。

  

  

「あ ―― すんません」


「……祠堂にもキミみたいな学生がいるなんて、

 意外だった」

 

「それどうゆう意味ー?」


「ふふふ……ご想像にお任せします」


「はぁっ??」 何気にムカつく!



*****  *****  *****



 『ホラ、着いたぞ』の声で、降り立った所は

 清水寺本堂近くの駐車場。

  

 そこから本堂下への参道沿いには

 ”全国さくら普及協会”

  (こんな団体があるなんて! 初めて知った)

   

 から、寄贈された約1500本もの、

 枝垂れ桜、江戸彼岸桜やお馴染みのソメイヨシノが

 一斉に咲き誇っている。


  

 個々の桜が季節外れに咲くのは時々

 見受けられている事らしいが。

 それぞれ、開花時期が微妙に違うこんなに多くの

 桜が一斉に咲く様はまさに圧観。

    

 私も昔はお花見でちょくちょく来てたが、

 最近はとんとご無沙汰で

 実物をこんな間近で見たのは久しぶりだった。

  

 欲を言えばライトアップされてる夜じゃないのが

 残念だったけど。

  

 すっきり晴れ渡った青空に ――、

  

 仁王門の朱色と、風に吹かれて舞い上がる

 桜の花びらがとても映えて凄くキレイ。      

  


 スゥーっとさり気なく、私の肩口へ回された

 彼の手は燃えるように熱かった。

  

 それを妙に意識してしまって、

 心臓がドキドキ高鳴る。

  

 参道をそぞろ歩きながら、 

  

 傍(はた)から見たら、

 私達2人はどんな間柄に見えるんだろう。

 

 ラブラブな恋人同士?

 兄と妹?

 不倫カップル?

 

 なぁんて 考えたりして……。

 

 

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