邂逅編

第3話 一夜の大誤算

 叔母から言われたお見合いの日はいよいよ明日。



『ったくぅ ―― なぁにが ”この前みたく

 旨いもん食って、相手の野朗は適当にあしらえ”よ。

 私はあんたの何なの?! 晴彦のばっきゃろー』




 少しでも胸中の不安を紛らわせようと、

 訪れたカフェバー『フィガロ』

  

 あの日向が営む店だ。

  


 ―― ゴクッ ゴクッ ゴクッ

 ……ぷはぁぁ~っ。

  

 こうゆう時のお酒って意外とどんどん

 イケちゃうからふ・し・ぎ。

  

  

「ねーぇー、ヒデさぁん、おかわりー」


「和ちゃん、今夜はかなり進んでるよ、大丈夫?」


「ん~……と、思う。1人で歩けるしー」  



 日向は苦笑しつつ、

 和巴の差し出したカットグラスへ

 新たな芋焼酎を注いだ。

  

 すると、和巴の後方から男の声が ――、

  

  

「ヒデ、その焼酎、俺にツケといて?」



 見合いの釣り書に添付されていた写真に

 そっくりの男が和巴の近くに立った。

  

 因みにこの男 ―― そっくりさん、とか、

 偶然うりふたつ、なのではなく、

 れっきとした見合い相手本人・宇佐見 匡煌うさみ まさてる

 30才。

  

 しかし、かなり酔っている和巴はそれにも

 気が付かない。

  

  

「こんばんわ、隣、座っても?」


「どーぞぉ? 私の指定席やないしー」



 宇佐見は自分のドリンクを日向へオーダーし、

 1人分の席を空けて座った。

  

 そして、テーブルへ肩肘ついて、

 和巴の横顔をじぃーっと見つめる。

  

 和巴はしばらくその図々しい視線を平然と受け止めて

 いたが ――、それにもいい加減うんざりして。

  

 深い溜息をついたあと。


 

「つきなみな質問だけど、私の顔に何かついてます?」


「ん~……眉がふたつ・目もふたつ、鼻が1個に

 口も1個ってとこかな」

 

「あー、おもしろー」



(何なの? このオヤジ)

  

  

「……なぁ、俺と寝よう」


「……は、い?」


「セッ*スしようって言ったの」


「アタマ大丈夫? 何なら精神科のいいドクター

 紹介するけど」

 

「あー傷つくなぁ。これでも勇気奮い起こしてキミ

 みたいな可愛い子に声かけたのにぃ」

 

「で、いきなりエッチしようって誘うワケ? 

 おっさん、どんだけ溜ってんのよ」

 

「回りくどいの嫌いだし」



 和巴は”ブッ”と、噴き出し、そのまま

 笑いのドツボにはまり、ゲラゲラ笑い出す。

  

  

「―― 俺、宇佐見匡煌」



 和巴、笑いすぎて痛む脇腹を手で押さえつつ、

  

  

「私はかずは。小鳥遊 和巴」       

   

  

 このあと2人は特に言葉を交わす事もなく、

 互いに酒を飲み干し ――、

 どちらともなく奥まった一室、

 パウダールームに姿を消した。


*****  *****  *****


「あ、あぁぁ ―― っっ!!」


「っ ―― んく……っ」



 ほとんど一緒に果てた後は、各々自分で後始末。

  

  

「―― なぁ、俺ら体の相性はめっちゃいいんと

 ちゃう?」

 

「んー……確かにね」



 宇佐見、和巴にキスしようとして寸前でかわされ、

 仕方なくその首筋へねっとり唇を這わせる。

  

  

「今度はゆ~っくりベッドで楽しみたいなぁ~、

 なんて?」

 

「火遊びはもうたくさん。最近私、見た目の良さは

 もちろんだけど、恋愛の将来性に安定も求めてるの」

 

「俺、どっちも自信アリ、だけど?」


「ふふふ……またね~? めっちゃ溜まりまくってた

 お・じ・さ・ん」           

    


 と、手慣れた様子で宇佐見を押しのけ室から

 出て行った。

  

  

「おじさん、って――俺はまだ30なんだけど……?」

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