白鷹会 肆

 三行くらいでわかる前回の話


 蛇穴凪さらぎなぎは白鷹に負けた。

 白鷹しらたかは、蛇穴の戦い方を熟知していたのだ。

 蛇穴凪は、新しい術こしらえて再挑戦することにした。


 ○


 蔵 二階


 用意は整った。

 俺は再び陣を発動させた。コツを掴めたのか、今回はすんなりと発動させることができた。


 気がついたら俺は木にしがみついていた。

 異界は前回と同じ様子だった。

 やはり、そよぎは梢の上でぶっ倒れていた。

 舞い降りてきた白鷹は、俺達の横にとどまった。


「――普段はにこにこと取り繕っておるようじゃが、実際はこれじゃ。御霊遷しを解呪できたとしても、こやつだけは間違いなく単体で存在を維持することは難しいじゃろうな」


「……そうか」


「羽のない器に押し込められて、さすがに儂も冷めたわ。人助けをする性分ではないが、この器にできることはしたいと思っておるが」


 白鷹がそんなことを言うとは……意外だ。


「つーわけで『今回はこの辺で勘弁してやるわい』ってことでしょうか……?」


「ククッ! まさか」


 いかめしい鷹の顔が、笑ったように見えた。


「それとこれとは別……儂は争いが大好きじゃ。お前はなんのためにまた異界に来たのじゃ?」


 ○


 俺が先に飛び立った。白鷹より下にいたかったが、すぐに追い越された。まあいい。

 序盤は昨日と同じような流れだった。

 白鷹の矢羽根攻撃は止まることを知らない。呪力の塊だから、弾数は無限に近いだろう。

 俺はひたすら呪符で迎え撃つ。

 この状態が続けば、俺が先にガス欠を起こしてしまう。

 白鷹のシンプルで止めどない攻撃からも分かるが、土地神というのは”不器用”である。これは土地神の数少ない弱点とも言うべき特性だ。

 一方、呪術師は“器用”だ。効率よく呪力を使って、様々な術を操っている。

 だが、いくら呪術師が神秘に近しい人間とはいえ、人間の持つ呪力は限界がある。

 ゆえに、呪術師はだいたい、先祖代々、肥えた土地に住み着き、その土地の神に奇跡を願う。

 昔は、良い土地を巡って、抗争が起きたそうだ。

 かつて――蛇穴は、春日に坐す波々岐を崇め奉っていたという。その蛇神が使役式と化し、外来の鷹神が土地神格として居座るようになっていたのは、そういった……いざこざの結果だと言われている。

 それはさておき。

 もう一度言うが、呪術師は器用だ。いや呪術師たるもの器用でなければならない。

 今回は”らしい”戦い方をしようと思った。

 睨み合いながら、しばらく落下していると、鬱蒼とした森のゾーンに入った。

 これ幸い、と、俺はそのうちの一本に着地した。

 白鷹の視界から外れたので、俺は気配は消す。隠形は、視認されている状態で発動させると、うまくいかないのだ。


 ハンデがあるとは言え、空の覇者と、羽のない人間が空中で対等に戦えるわけがない。

 この森の中で仕留める。


 ――来た!

 ――上から⁉


 どこかで入れ違ってしまった。

 俺を見つけるやいなや、白鷹は羽根を折りたたみ、弾丸のように飛んできた。

 今勝負に出ても勝てないと悟った俺は、逃げるようにして、木から飛び立った。

 いや……まだ方法はある。

 いけるか……!?

 落下する中で、俺は空間に指を突き刺した。

 異界の中に、俺のセカイを打ち立てたのだ。

 俺は所詮人間だ。白鷹の“果てしない天空の世界”のような芸当はできない。塗り替えることができたのは指先だけだったが……今はこれで十分だ。

 手が引っかかったことで、俺の落下が止まる。

 白鷹が、俺を追い越す。


「ぬっ!?」

  

 白鷹は急旋回して九十度に近い角度で飛ぼうとしたが……遅い!

 鷹という鳥は、急上昇が苦手なのだ。

 俺は異界に引っ掛けていた指を離した。白鷹との距離を詰める。

 この世界で死んでも現実では死なないのだ。捨て身の特攻だった。

 白鷹の知らん術を、至近距離でぶっ放してやる。


「――取った」


 俺を見上げた白鷹は、負けじと、羽をぶわ、と膨らませた。

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