アンドロイドは恋をするか

高山 響

アンドロイドは恋をするか?

「なあ、アンドロイドって恋すると思うか?」

「恋?なんでまた」

梅雨に入り、雨の降る学校の帰り道。二人の男子が横に並んでそんな会話をしていた

「いやー、この間駅前のコンビニに入ったアンドロイドが可愛くてさ」

「あー、なるほどな。まぁ、やめとけ。アンドロイドなら相手にされないだろうし、仮に違ったとしてもお前には高嶺の花だ」

「うわ、ひでぇな。そんなこというんじゃねぇよ」

「事実だろー。まぁアンドロイドに感情があるのかも不明確だからなぁ。恋なんてしないんじゃないか?」

「お前には夢がないのか!」

片方の男子がそう言って立ち止まる。僕はそれに気づかず男子ににぶつかってしまった。 

「お!ごめん!」

「いえ……気にしないでください……」

僕はそう言って男子から逃げるように早足でその場から離れる。



アンドロイドが人間社会に溶け込むようになって約5年。今ではありとあらゆる場所で見かけるようになった。今では家庭にもアンドロイドがいることは珍しくない。それぐらい人間社会に溶け込んでるアンドロイドと人間の見た目の差はそれほどない。区別できる点と言えばアンドロイドは耳に判別用のバーコードが入っているぐらいだ。だからアンドロイドに恋をする人もいるしそれがニュースでも問題として取り上げられるほどだ。アンドロイドと人間は友人どまりだっていう人もいれば学習していって感情を得れれば恋もするはずだという人もいる。ただ、そんなものは僕にはどうでもいいことでしかないし、僕以外にも無関心の人の方が多い。




「ただいま……」

僕は家に帰りリビングに置いてある家族写真に向かってそう言う。

「おかえりなさい」

僕が写真を眺めていると寝室から女性の声が聞こえる。

「ただいま、アカリ」

彼女は5年前、まだアンドロイドが人間社会に溶け込み始めた頃に僕の家に来たアンドロイドだ。僕の両親がまだいた頃にアンドロイドと人間が共に生活できるのかという実験の為に僕の家に来た。ただ、三年前、両親が交通事故で亡くなってからは仮の保護者として僕の家に住んでいる。

「ご飯ってもう作ってる?」

「まだ作っていません」

「そっか、今日量少なめでいいや。あと僕少し寝るから、三十分ぐらいで起こして」

「わかりました」

彼女が頷いたのを確認してから僕は寝室に向かいベッドに倒れこみ、精神的に疲労がたまっていたからか二分もしない内に深い眠りについた。


___________


「誠―、父さんと母さん出掛けてくるけどついてくるか?」

父が僕に問いかけてくる。

「いや、めんどいから二人で行って来たら?」

「そうか……」

僕は父の顔も見ずそう答えると父は寂しそうな声をしながら部屋を出ていった。

「じゃぁ、アカリちゃん。少しの間誠のことよろしくね」

母がアカリに向かってそう言ってるのが聞こえる。

「か……ってきたら………」

「……だな……しょに……」

父と母が何かを会話して家を出ていった。

それから数時間後父と母が交通事故で亡くなったということを電話越しに伝えられた。


___________


身体を揺すられ目を覚ますと目の前にアカリの顔があった。

「……なにしてんの……?」

「なにかありましたか?」

アカリの言葉を理解できないまま黙っているとアカリは続けて僕の目元をティッシュで拭う。

「……泣いてた?」

アカリに問いかけると彼女は首を横に振った。

「うなされていました」

彼女のその答えにそりゃそうかと思う。

「夢を見たんだ……懐かしい夢を」

「夢ですか?」

アカリは首を傾げる。

「うん……父さんと母さんがいた最後の日のこと……」

アカリは黙って僕の顔を見る。

「ねぇ、アカリ……三年前に父さんと母さんと会話したときのこと覚えてる?」

僕のその問いにアカリは頷く。

「記録されたものが残っています」

どれだけ人間に近くてもこういうところはロボットっぽいなと思いながら僕はスマホを取り出す。

「これに送れたりする?」

そう聞くとアカリは何も聞かずにデータを送ってくれた。


___________


送られてきたデータは5分程度の短い映像だった。

『じゃぁ、アカリちゃん。少しの間誠のことよろしくね』

「母さん……」

久しぶりに母親の声を聞くととても懐かしく温かく聞こえた。

『帰ってきたら久しぶりにみんなで誠の誕生日を祝うから、アカリちゃんこのことは誠に内緒ね?』

『そうだな、アカリちゃんも一緒に祝おう』

あの時に聞き取れなかった両親の言葉。その言葉を聞いた瞬間僕は父親に対して言った言葉を後悔した。

『もう少し早く皆揃って祝って上げられたらよかったけどな……』

『仕事で忙しかったんでしょ?仕方ないわよ』

今まで両親が揃って祝ってくれなかったから、誕生日のことをどうでも思っていたが両親はそのことをどこか気にしていたんだろう。

『じゃぁ、いってきます』

『いってきます。一七時ぐらいには帰ってくるから』

父親と母親のその言葉を最後に送られてきた映像は終わった。

「父さん……母さん……」

両親が亡くなっても流れなかった涙が溢れる。今更実感が湧いたんだ。僕は泣き声を抑えながら目元を拭う。

「大丈夫、大丈夫」

泣き声を抑えながら泣き続けていると、アカリが僕のことを抱きしめ頭を撫でてきた。

僕はアカリの言葉を聞いて安心したからか子供みたいに大泣きした。今まで抑えていた分涙は沢山溢れてきたけどアカリは僕が泣き疲れて寝るまで、ずっと僕の頭を撫で続けてくれた。

____________

泣き疲れた僕が起きた時には雨も上がり夕焼けが部屋の中を照らしていた。

「どれくらい寝てた?」

僕は傍で座っていた彼女に問いかける。

「1時間程度です」

「そっか、ありがとう」

彼女は頷いて台所に向かい晩御飯の準備を始める。僕がテレビをつけるとテレビではまたアンドロイドに恋愛感情はあるかということが話題に上がっていた。

「……アンドロイドに好きっていう感情あるの?」

僕は何気なく彼女に聞く。

「感情というものは不明確なものなので断言はできません。ただ私は貴方のことが好きと認識していますよ?」

答えになっていないようなその言葉は恋愛感情での意味なのかは聞かないことにした。ただ、そう言った彼女の表情はアンドロイドと思えない程綺麗で思わずドキッとしてしまった。

「ねぇ、アカリ。今度映画でも見に行こうか」

今まで置いてきた距離を少しずつ詰めていこうと心に決めて僕はアカリをデートに誘った。

アンドロイドが恋をするのかは分からないままだけど。いつか好きになってもらえたらと思いながら。


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アンドロイドは恋をするか 高山 響 @hibiki_takayama

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