第3話

 ファムはレヴォルたちに、親睦を深める、と称して今までの旅に探りを入れていた。その中で、レヴォルたちが出会ったときのことが話題に上がってきた。


「へー、レヴォルくんは王子様なんだね~」

「あ、ああ。王子といっても、城ではあまり居場所は無かったんだがな」

「ふーん……。お姫様がいたお城もそんな感じだった?」


 王子様という言葉にファムは一瞬表情を暗くした。が、すぐに笑顔を取り繕って誰にも気づかれていないことを確認し、レイナに問う。ファムに ‘‘お姫様” と呼ばれ、レイナが不機嫌そうに答える。


「私は、まあそれなりに幸せに暮らしてたわよ。物語を聞かせてくれるおじいさんも居たしね」

「ねえねえ、ちょっと気になってたんだけど、レイナさんもどこかの想区のお姫様だったの?」


エレナの問いに調律の巫女一行の四人は一斉にレイナの顔を見る。と、レイナは隠すことでもない、と言って故郷の想区のことを話した。


「私は……どこの想区だったのかは分からないんだけど、一応お姫様だったのよ、これでも。故郷の想区はもう……滅んでしまったけどね」

「確か、彼女―レイナ・フィーマンは ”白雪姫の想区” を模倣して創った箱庭の王国の出身よ。故郷が滅んだのはある魔法使いが彼女を刺激して、彼女の中にいたストーリーテラーが暴走したから……と言われているわ。ですよね、先生?」


 レイナの言葉にアリシアが付け加える。ただし、調律の巫女一行には聞こえないように。そしてパーンに確認するが、パーンは何かを堪えるように黙っていた。


「……先生?」

「え、ああ、すまない。そうだね、その通りだよ。よく勉強しているね、アリシア」


 言ったパーンはまだ上の空な感じだった。ある魔法使いとある混沌の巫女のことを嫌でも思い出してしまう。


「あれ、そう言えばシンデレラも今はお城で暮らしてるんじゃ……」


 少し遠くで気付いたようなエクスの声が聞こえた。再編の魔女一行は自分たちが話している隙に彼らと離れてしまったことに気付き、急いでエクスたちに駆け寄った。


「そうですよね。確か前にシェインたちがこの想区に来た時、舞踏会があってましたから」

「…………その時に王子様に見初められて、結婚したはず……だよね」


 ファムの表情が暗くなる。が、それを誰にも悟られぬように、またむりやり笑顔を作った。


「……それが、王子様がいなくなっちゃって。それでみんな王子様を探しに行ってるから、お城の警備が薄くなっててね」


 だからお忍びで城下に遊びに来たのだ、とシンデレラは言った。


「で、私たちとばったり会っちゃったわけね。良かったわね、大好きなエクスと偶然会えて」


 どこか棘のあるような言い方をするレイナに、エクスは慌てて彼女の言葉を否定する。


「レっ、レイナ! シンデレラはただの幼なじみだってば!」

「あら、向こうはそう思ってないかもしれないわよ」

「いやいや、シンデレラは王子様と結婚してるんだよ? そんなことあるわけないって」

「……あら、私はエクスのこと大好きよ」


そう言うと、シンデレラは悪戯っぽく笑った。


「な……っ」

「シ、シンデレラ⁉」


驚く二人に対し、シンデレラは呟く。


「大切な幼なじみ……だもんね、エクス」


 いまだシンデレラの言葉に衝撃が抜けない二人は開いた口をぱくぱくとさせる。


「……うわー、シンデレラちゃん、小悪魔だねぇ。アレ、絶対分かってやってるよね」

「そうだな。まあ、宮廷でその辺の駆け引きも覚えてきたんだろう」

「お城ってそんなに大変なところなの? わたしはキラキラしてるイメージしかないなあ」

「はは、エレナちゃんは純粋だな。そんなの表面だけだよ」


 かつての王宮内での自分の扱いを、決して直接的に言われたわけではないが確かにレヴォルの耳に届いていた蔑みを思い出し、エレナに言う。


「レヴォル……? なんか顔こわ――」

「あっ、私そろそろお城に戻らなくちゃ!」


 シンデレラが思い出したように言うと、エクスの方へ向き直った。


「ねえエクス、まだしばらくはここにいるんでしょう?」

「え、ああ、うん。いるよ」


 レイナがカオステラーがいると言っていたことを思い出し、エクスは頷く。


「良かった! じゃあまた明日もお城を抜けてくるわね。ふふ、また会えるといいけれど」

「……しばらくこの近くにいるから、きっと会えるよ。また明日、シンデレラ」


 幼なじみ同士、二人の世界を築くエクスとシンデレラを、レイナは黙ってじっと見つめていた。

 それからファムも、レイナとは違った意味でシンデレラたちに不安げな視線を送っていた。

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調律の巫女と再編の魔女 雨宮羽依 @Yuna0807

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