アーリー・モーニング
こうやとうふ
AM02:00「二時間遅れのミッドナイト」
時刻は午前2時38分。栄養ドリンクを数本飲んでもまだ眠気が半端じゃない自分に喝を入れる。彼女の頼みで、僕は今、車を走らせている。
今の時間の空はまだ暗い。車のライトで先を照らしているとは言え、ペーパーの僕には怖すぎて歯の根が噛み合わずガチガチ言う。
「少し暑くない?」
助手席に座る彼女に声をかける。無言でカーナビを眺めていて、返事は無かった。
どうせこの様子だと、あと30分は黙りこくったままだ。期待するだけ無駄。一抹の寂しさを覚えつつ、窓を開ける。深夜の風は涼しく心地よい。
後部座席には3枚の毛布が積まれていて、その横には小さいキャリーケース。中には着替えが入っているらしいが、一体何をするつもりなんだろうか。
「……ありがとうございます」
「何が?」
「罰ゲーム、です。まさか聞いていただけるとは思いませんでした」
ああ、そのことか。
先日、僕と彼女は賭け事でババ抜きをした。三戦のうち、彼女が全戦全勝。僕は全然歯が立たなかった。
「……約束だからね。でも、あんなところに行って何をするつもり?」
「カメラ、ありますよね?」
「ん? あ、ああ……」
キャリーケースの中には着替えと一緒にカメラが入っている。使い方は彼女のお母さんから習ったから問題はないと思うけど。
「デジカメですか。私はフィルムの方が味があって好きなんですけど」
「今のご時世、フィルムを使う人なんていないよ。一般人の僕はフィルムじゃなくてデジカメ使うよ」
そうですか、と彼女は呟いた。しばらくの沈黙のあと、彼女の一言がそれを破った。
「……あと、どれくらいで着きそうですか?」
「もうすぐ。ほら、見えて来たよ……」
前方に広がる闇を指差した。彼女の目がその闇を見つめる。
誰もいない駐車スペースに車を止める。
「お疲れ様でした」
「ありがとう」
彼女の労いの言葉が嬉しい。気が緩んだら、少し眠気が襲ってきた。
車のライトで照らされたその場所は、ゆらゆらと揺らめく濃紺のカーテンのよう。
夜の海に、僕たちは来ていた。
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